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オーシャンニューズレター

第27号(2001.09.20発行)

第27号(2001.09.20 発行)

沖ノ鳥島の活用

独立行政法人 港湾空港技術研究所 海洋・水工部◆平石哲也

わが国の排他的経済水域を確保するために沖ノ鳥島の活用が必要である。沖ノ鳥島を中心として半径200海里の円を描くと、その広さは40万km2となり、ほぼわが国の陸地面積に等しくなる。沖ノ鳥島がわが国の排他的経済水域の基点として国際的に十分認知されるためには、ここに経済活動を実施するための拠点を建設する必要があり、そのためには波浪や流れの実態を把握しながら、安全な施設を確保するための技術開発が急務となっている。

沖ノ鳥島の現状

小笠原諸島の南方900km沖に位置する沖ノ鳥島は、鉄の波消しブロックに守られた2つの露岩と、満潮時には水没する環礁からなる長さ4.5km、幅1.7kmの、太平洋上に孤立した無人島であり、1861年に日本固有の領土として宣言されていると言われる。満潮時でも水没しない2つの露岩は、1987年から、波による浸食を防ぐために、鉄製の波消しブロック護岸で防護され、その後、必要に応じて補強工事が続けられている。現在は、工事用のヘリコプター離発着用プラットフォームが建設されており、国土交通省の作業船と海上保安庁の観測船が年数回通っている。

1982年に採択され、1996年より日本について効力が発生した「海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法)」では、200海里の排他的経済水域が沿岸国の権利として認められており、海域内での鉱物や水産資源の優先的使用を図ることができる。沖ノ鳥島を中心として半径200海里の円を描くと、その広さは40万km2となり、ほぼわが国の陸地面積(38万km2)に等しくなり、沖ノ鳥島をわが国の国際法的な管轄権行使の基点として保全することの意義は非常に大きい。ただし、同法の第121条・島の制度、第3項では、「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することができない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない」と規定されている。したがって、当該国の排他的経済水域の基点として認知されるためには、何らかの経済的生活の維持が必要であるわけだが、鉄、コンクリート等の各種素材の浸漬暴露実験を実施中であるほか、海洋工事用のプラットフォームが設置されているとはいえ、果たして、沖ノ鳥島がこの基準を満たしているか否かについて、諸外国から疑義がさしはさまれる可能性も皆無とはいえない。しかし、現在のところ、沖ノ鳥島に関するわが国の取り扱いに対して他の国からこれに類する公式のコメントは寄せられていないようである。したがって、この特殊な自然環境下にある孤島での経済的生活の維持を疑いのないものとするように、よりいっそう有効に利用することを検討することが肝要である。

沖ノ鳥島の活用法

沖ノ鳥島の経済活動としては、その孤立性を生かした利用法が適している。たとえば、地球温暖化を予測するための海洋気象観測基地、海底の鉱物資源の探査基地、深層水の取水・水産等多角利用施設、中部太平洋海域での避難港、主として漁船を対象として中継補給施設、等である。あるいは、周囲の騒音に支障を受けない天体・宇宙観測、高層気象観測施設、ロケット発射・追跡・着陸基地、臨時飛行場等への利用が考えられる。

沖ノ鳥島の露岩はたかだか数m2程度しかないが、広大な環礁リーフの内側水域の水深は、満潮時でも5m程度である。海底の地質は砂岩層で、簡単な基礎工事を行えば、上記の施設を建設することは容易である。問題は交通手段で、常時の観測活動や生産活動を円滑に実施するためには航空機による交通手段を可能にしておかなければならない。

他方、台風の北上コースに位置しており、台風接近時には非常に大きな波浪が来襲する可能性がある。港湾の設計で用いる確率波の概念を用い、台風の風の分布から来襲波浪を推算してみると、100年に1回程度発生する可能性が高い波の高さは17m、周期は18sec、波向は南になる。ところが、わが国で設計に用いる波が最も大きい港湾の一つである沖縄東海岸の中城湾での波高は15.3mである。

■沖ノ鳥島と200海里排他的経済水域

■沖ノ鳥島と200海里排他的経済水域
 

排他的経済水域・画像
長さ4.5km、幅1.7kmの環礁からなる沖ノ鳥島。わが国の陸地面積にほぼ等しい40万km2の排他的経済水域を有している。
※上記写真は、本誌と異なり、毎日新聞社提供ではありません。

したがって、沖ノ鳥島で施設を建設し、来襲波浪に対して安全であるようにするためには、その施設の強度は、大型の外洋型港湾施設とほぼ同様もしくはそれ以上のものが必要である。わが国の外洋に面した港湾の場合は、沖合いの防波堤によって波の力を防いでいるので、沖ノ鳥島でも大型の防波堤を建設する必要があるかもしれない。

不可欠な環礁リーフによる波高の低減に関する水理実験に取り組み中

実験の写真
浮体模型に作用する波浪外力を測定する実験

沖ノ鳥島周辺の海底は急激に深くなっており、防波堤のような波浪制御構造物を建設することは不可能である。しかし、島の中央部の浅水域は環礁で囲われており、環境そのものを天然の防波堤として活用できる可能性がある。環礁地形による波高の減衰の様子は非常に複雑で、現在のところ、適切な数値計算技術がない。したがって、沖ノ鳥島の有効活用の前提として、このような基礎的な技術の確立は不可欠なのである。

そこで、港湾空港技術研究所の多方向不規則波造波装置を用いて模型実験を実施した。多方向不規則波造波装置とは、小型の造波板を多数並べることによって、斜めに進む波や、多くの方向からエネルギ-が来襲する海の波を正確に再現できる新しい施設である。

実験では、交通手段として最も利便性が高い、小型ジェット機の離発着に適した1500mの浮体式滑走路の建設を想定した。模型実験では、1/150の縮尺で滑走路と環礁部の模型を製作し、環礁内の波高と流れの変化および浮体の運動を調べた。その結果、沖合で15mの波浪が環礁内では砕波によって5mに減衰し、適切な係留法を採用することによって滑走路を建設することが技術的に可能であることがわかった。その後、引き続き、実験結果を再現できる高精度の数値計算法を開発に取り組んでいる。

資源の乏しいわが国にとって、貴重な海洋空間である沖ノ鳥島周辺海域の利用を図るために、今後も低コストの施設建設技術の確立に取り組む予定である。(了)

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