◆編集子の世代にとって、「沖ノ鳥島」という地名は子供の頃にラジオで伝えられる台風情報の記憶と一体となっており、ノスタルジックな響きを持つ。「ゆっくりと来る台風に疲れをり」(有本ちよ子)。その沖ノ鳥島が、200海里時代の排他的経済水域の基準点として大きな価値を持つようになり、それを保全する事業が海岸法の改正によって国の直轄事業として行われるようになったことは、かねてから聞き及んでいた。平石氏のオピニオンは、はるか南海の小さな岩礁をめぐる社会的な要請の変化と、そのための基礎的な科学的認識の地道なかかわりを紹介して興味深い。
◆潜水士という職業は一般にはなじみのない、非常に専門性の高い職業としてイメージされる。この道30年という大ベテランの渋谷氏が、海の心がわかる潜水士を養成することを通じて、社会全体での海への思いやり、他の生命への思いやりへの拡大を試みる講座を開設されているというのは、専門性の深さに比例したスケールの大きなロマンを感じさせる。「最初に必要なのは、感じることなのである」という氏の指摘に諸手を上げて賛成したい。
◆もう一つの男のロマン、マグロの一本釣りが青函トンネル工事の振動によって大きな影響を受けていたことを紹介する濱田氏の投稿は、敏感に感ずることがありとあらゆる生命の生存の基盤にあることを教える。感ずることと学習すること、感覚と理性、自然のあるがままとその賢明な利用、そのバランスをわれわれは大切にしなければならないと思う。(了)
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