Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第277号(2012.02.20発行)

第277号(2012.02.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所・教授)◆秋道智彌

◆手元に「東京湾漁場圖」がある。明治41年(1908)に泉水宗助さんにより刊行されたもので、東京湾内における漁業や藻場・干潟の詳細な分布が示されている。くわしく見ると、湾内の沖合いでは打瀬網漁、エビ桁網漁、サワラ、ダツ、サメなどの網漁が所せましと営まれていた。沿岸域には、ハマグリ、バカガイ、アサリ、シオフキなどの貝類を採る漁場がギッシリと分布している。さらに岸近くには、アジモとニラモの藻場がある。アジモはアマモ、ニラモはコアマモを指す。2009年9月6日に東京海洋大学で「「東京湾漁場図」を読み解き、東京湾のいまを考える会」(代表 林しん治さん)主催の会があった。わたしもこれに参加させていただいたが、これからの東京湾をどうするかについてさまざまな分野からの意見がかわされた。ほぼ100年前、東京湾がいかに豊かな海であったこと、その後大きく劣化してきたことは明白である。そのことへの危機感を共有し、東京の海を考えることは、建設中の東京スカイツリーに代表される発展と繁栄の陰で何が失われたかを知ることでもある。東京都港区議会の榎本 茂さんが海の浄化作用、とりわけCO2固定に果たす海洋の役割を、地元東京から発信するための具体的な取り組みを紹介されている。身近なところからの提案は大切であり、その輪の広がりを期待したい。
◆地球全体からみると、東京湾はたいへん小さな海域である。米国とカナダにまたがる五大湖はつとにしられた巨大な湖沼生態系であり、その総面積は日本の本州と四国をあわせたくらいの規模がある。ミシガン大学で五大湖の生態学的研究に取り組む藤崎歩美さんは、五大湖の環境収容力と人間活動との相互作用を歴史的に検証し、規模は違うとはいえ、湖と人間とのよりよい関わりについて今後のマスタープランの見取り図を提案されている。これだけ巨大なシステムを統合的に扱ううえでは、産業セクターと、物理・生態・気候などの研究、さらには行政が一丸となったシステム研究が不可欠である。投入される経費も莫大である。東京湾の場合、計上される経費や産学連携のありかたについて、わが国はもっと米国・カナダに学ばなければなるまい。
◆現代、海と湖を含む水域の環境保全が大きく注目されている。一昨年に名古屋で開催された生物多様性条約締約国会議(COP10)でも、この先2020年までに少なくとも陸域と内水面の17%と、沿岸域の10%を地域独自の方策を通じて保全することが愛知ターゲットの条項のなかで、ターゲット11として明文化された。時間は限られている。実効的な措置に向けての動きが加速化される必要がある。今年6月開催のRio+20がその大きな駆動力となることを期待したい。◆この点で、海洋小説の未来を展望した東京大学大学院の中地義和さんのおもいは、愛知ターゲットよりも少し先にあるのだろうか。わたしは、むしろ文学的想像力が政治・経済に先行してほしいものだとひそかに願っている。(秋道)

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