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オーシャンニューズレター

第271号(2011.11.20発行)

第271号(2011.11.20 発行)

海洋創生資源の積極的活用

[KEYWORDS] CO2固定/エネルギー創生/大型藻類
一般社団法人 海洋環境創生機構運営委員長◆最上公彦

藻類に基づくバイオ燃料などの海洋資源は、「海と太陽」があれば永遠に創りだすことができる。
人間の生活で発生したCO2を藻類に固定化し、この藻類から人間の生活に必要なエネルギー、高付加価値資源を創生する一連の物質循環をより高度なものとして実現できれば、地球環境問題やエネルギー問題にも大きく貢献できる。

海洋環境創生機構設立

■藻類による物質循環のフロー

現在、世界は地球環境問題とエネルギー問題さらには食糧問題など大きな課題に直面し、今世紀前半で解決しなければならない必要性に迫られています。わが国は、国土の約12倍、世界6位の排他的経済水域を持ち海に囲まれた経済大国です。これまでほとんど開発されてこなかったこの海洋にこれらの解決策を求める必要があります。わが国には長い時間をかけて培われてきた「海と共に生きる」知恵と高い技術力があり、この知恵と技術力を積極的に活用し、わが国のみならず、地球上の全ての人々に「海の恵み」を供することが持続的発展社会の基本と考えます。すなわち「海と太陽」から人類の生存に必要なあらゆる「物」を「創生」することこそ、「自然との調和」と「物質循環」を実現するものと考えます。
広大な「海と太陽」から創生される「物」は藻類の光合成によりCO2を資源として固定化し得られる「物」であり、永遠に枯れることのない資源であり、まさに「物質循環」そのものです。
具体的には、(1)藻類に基づくバイオ燃料などエネルギー資源とバイオケミカル資源、(2)藻類に凝縮されたレアアースや医薬品などの高付加価値資源、(3)食料、肥料、飼料として直接利活用する海洋資源、(4)藻類による、海洋環境の浄化による枯渇なき水産資源、となります。これらの海洋資源は「海と太陽」があれば永遠に創りだすことができ、「海洋創生エネルギー」「海洋創生付加価値資源」として利用することができます。さらに、洋上で得られる洋上風力発電や潮流発電などの自然エネルギーと併せて利活用することでより実用性のある海洋資源となります。
藻類による海洋創生の産業構造は単にエネルギー産業や高付加価値資源創生産業だけに留まらず、これまでの経験豊かで高い技術力を持った農水産業などと融合し新しい海洋産業として構造化し大きな雇用を創出する産業構造となることが期待されます。
現在、世界各国の多くの研究機関や企業はCO2削減技術やCO2固定化技術を開発しています。これまで藻類を活用してCO2を固定させる藻類バイオマス研究も盛んに進められてきましたが生産効率や製造コストに大きな課題を抱えており、これ単独では実用化・事業化に程遠い状況にあります。
将来の「自然との調和」と「物質循環」を基本とする社会においては海洋創生エネルギー、高付加価値資源、さらには食料等の枯渇なき海洋資源の利活用が絶対的条件です。そのためには、海洋において効率よく藻類からエネルギーを生産する研究開発と他の海洋創生エネルギーとのベストミックスの研究開発と最適化された全体システムの構築が必要と考えます。
海洋環境創生機構(http://kaiyo-sosei.com/index.html)は2011年に設立され、「海と太陽」からあらゆる資源を創生するとともに、これまで破壊されてきた海洋環境を再生する「海洋環境創生社会」を世界に先駆け一刻も早く実現するため、産学一丸となって実用化研究を推進することを目指しています。この実用化研究は以下の3分野について推進します。

実用化研究3分野

1)藻類の高度化研究推進と藻類からの海洋創生資源の採取
海の藻類を介した「物質循環」は光合成によるCO2の藻類固定から始まり、最終的にはエネルギーや高付加価値資源あるいは食料を利活用する一連の物資循環です。
これまでの多くの海洋資源創生に関する実用化研究は、単により効率の良い藻類を発見したとか、効率の良い生育方法を開発したというものがほとんどでした。人間の生活で発生したCOvを藻類に固定化し、この藻類から人間の生活に必要なエネルギーや高付加価値資源を創生する一連の物質循環をさらに高度化すると共に事業性も成立する全体システムとして完成させる必要があります。そのために以下の5項目について具体的に研究を進めます。
(1)藻類の多機能化と高生産性に関する開発研究および実証実験、(2)海洋バイオマスエネルギー・高付加価値資源採取に関する開発研究および実証実験、(3)藻場環境に関する開発研究および実証実験、(4)これらの藻類におけるCO2海洋固定の検証、(5)実証実験評価と全体システム構築に関する開発研究。

■海洋を含めたスマートコミュニティ

2)大規模海洋プラットフォームの実用化研究
バイオマスエネルギーや洋上風力エネルギー、さらには潮流発電エネルギーなどの海洋創生エネルギーをベストミックスな状態で確保し、さらに海洋から高付加価値資源を獲得するために大規模な洋上のプラットフォームが必要となります。この海洋プラットフォームは単に洋上の生産のための構築物としての機能ばかりでなく、新しい漁場の開発や海洋環境の改善の機能と、更にはこれからの海洋インフラの基地としての機能を備えているものと考えます。
従って、あるべき海洋プラットフォームは耐久性・安全性が高く、また、用途、規模により構成を自由に変更できる形態が必要と考えます。これまでのメガフロートの実用化で培われた研究成果を基本とし、新しいタイプの海洋いかだの実現を目指して、以下のように基礎研究から実証実験までの一連の研究開発を推進する計画です。
(1)基本的条件、強度・浮力に関する調査研究、(2)海洋プラットフォームのインフラシステムに関する開発研究および基本計画と基本仕様の作成、(3)大型海洋いかだ構築システムの開発研究および実証実験、(4)海洋いかだを基盤としたベストミックスな海洋創生エネルギーシステムに関する開発研究および実証実験、(5)実証実験評価と事業化に向けてのロードマップの作成。

3)海洋環境循環社会モデル研究
わが国は昔から養殖漁業が盛んで、魚介類やのり、昆布、わかめなどの藻類の養殖漁業技術は世界トップレベルにあります。この高い養殖漁業技術を有する地域と海洋資源創生のプラットフォームを有機的に結びつけることにより、水産業の再生や新たな水産加工産業を興すことにより地域を活性化させ、新たな雇用を生み出すことが可能になります。さらに新たなエネルギーや高付加価値資源の創生を包括したスマートコミュニティ社会は陸と海が一体となった新しい形のスマートコミュニティ社会であり、地域に新たな産業と地域振興を生み出す海洋環境循環社会モデルとなります。

実現に向けて

これまで多様な海洋資源の創生については多くの研究者や企業が研究成果を発表していますが全体システムの構築がなされていないため将来を担うような実用化には至っていません。海洋環境創生機構は研究者や企業が新たな実用化研究やプロジェクト推進に取り組むことに必要な基盤を提供する組織です。さらに多くの研究者と企業の方々に参加をいただき、環境創生社会の実現に向けて活動してまいりますのでよろしくお願いいたします。(了)

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