Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第271号(2011.11.20発行)

第271号(2011.11.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所・教授)◆秋道智彌

◆海は誰のものか。この命題について、これまで多くの議論があり、海の所有に関する法的な位置づけも幾多の変遷を経てきた。1609年のH・グロティウスによる『自由海論』(Mare Liberum)は「海は誰のものでもない」とする内容であったが、それとは裏腹に海洋をわがものとする制海権を宣言したことにほかならなかった。現代では領海12海里に加えて200海里排他的経済水域が設定されており、世界の海では国家の主張が最大限に認められる形となるに至った。そして、排他的経済水域の外延にある公海こそが「誰のものでもない海域」となっている。ただしこの制度設計とは別に、1945年のトルーマンによる大陸棚の領有宣言と1967年におけるマルタのパルド国連大使による深海底の共有財産宣言にあるとおり、大陸棚と深海底における資源利用をめぐる拮抗した情況が作り出されて今日に至っているのも事実である。東京大学の浦辺徹郎さんは、「大陸棚の限界に関する委員会」委員に着任し、同委員会における審査などの任にあたることとなった。この委員会は、海の資源利用をめぐる国家間の政治的・経済的・法的な利害関係にまったく拘泥されない地質学・地球物理学・水路学などの科学的見地から設置されたものである。オーシャン・ポリティクス(Ocean politics)とは一線を画するこの委員会が所期の目的に向かって大きな役割を果たされることを非常に強く期待したい。
◆一方で、海洋資源の有効利用は世界にとり喫緊の重要課題であることはいうまでもない。海洋のもたらす生態系サービスを最大限に生かす技術開発について、海洋環境創生機構の最上公彦さんは「海洋プラットフォーム」の実用化を提案されている。海洋生態系サービスのなかの供給サービス、調節サービス、維持サービスを組み合わせた壮大なプロジェクトの夢を叶えるためには、相当な人的ネットワークと統合化された技術開発が不可欠である。より具体的な提案を今後ともに期待したい。
◆というのも、現在、海洋の生態系は地球の進化の過程でおおきな曲がり角を向かえているからだ。それが温暖化による海水温上昇と生物多様性の劣化と、海洋酸性化の問題である。太陽系惑星のなかで、地球の存在はユニークであり、その表面積の7割を占める海洋は海洋生物の石灰化を通じて大気中の二酸化炭素濃度を大幅に減少させる維持サービスの機能を果たしてきた。東京大学の長澤寛道さんは真珠養殖を例として、石灰化を利用した海洋産業の意義と昨今の海洋生態系の変化に注目されている。真珠養殖は日本にとり十八番の産業である。海の保全を図り、真珠養殖業を振興することがのぞまれる。(秋道)

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