Ocean Newsletter
第270号(2011.11.05発行)
- NF-UBC ネレウス・海の未来プログラム 副統括(Co-Director)、ブリティッシュコロンビア大学 上級研究員◆太田義孝
- 静岡大学 創造科学技術大学院教授、第4回海洋立国推進功労者表彰受賞◆鈴木 款(よしみ)
- 東京大学名誉教授、第4回海洋立国推進功労者表彰受賞◆吉田宏一郎
- 『人と海洋の共生をめざして~150人のオピニオンV』発行
- ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男◆タイの洪水被害が拡大し、長期化の様相を見せ始めた。ヨーロッパの金融危機に加えて、アジアの水災害が世界経済に深刻な影響を与えることが危惧されている。秋の多雨期を前にして、ダムの貯水量管理に失敗したことが直接的な原因とされている。背景には、温暖化し、水蒸気を多く含むようになった地球大気の基本状態の下で、この秋には太平洋にラニーニャ現象が復活し、加えてインド洋にダイポールモード現象が発生しているため、インドシナ半島における降水量が著しく増大していることがある。このような現象の発生は予測されていたことであり、その情報が活用されなかったのは残念なことだ。気候情報サービスの国際ネットワークを早急に確立する必要がある。
◆今号の最初を飾るオピニオンは、日本財団とブリティッシュコロンビア大学により、今秋に開始された学際的国際事業「ネレウス・海の未来プログラム」に関するものである。このプログラムの中核を担う太田義孝氏にそのめざすところを解説していただいた。ネレウスはギリシャ神話に登場する神であり、海神ポントスと大地の神ガイヤの子で穏やかな内海を象徴する神である。まさに、持続可能な漁業の姿を目指し導入された学際的なプログラム名にふさわしい。広い視野をもって世界の漁業を指導する人材を輩出することを期待したい。
◆加えて、今号では海洋立国推進功労者表彰を受賞された鈴木 款氏と吉田 宏一郎氏に執筆をお願いしている。鈴木氏は大地と海の環境を構成する生命系と非生命系を物質が自在に巡ることを可能にしているのは化学反応であること、また生物を含む環境システムは決して静的な安定状態にあるのではなく、不安定物質を絶えず生成する動的な平衡状態にあることを「化学共生」の視点から解説している。人為起源の放射性物質の循環を考える上でも参考になるオピニオンである。吉田氏は持続的な海洋利用の在り方について、氏の持論である「大水深プラットフォーム」構想を紹介しつつ、オピニオンを展開している。海洋を持続的に活用すること無くして、持続可能な社会を築くことはできない。母なる海といかに共生し、良き生(well-being)を築いてゆくべきか。良き生には、科学技術を一層推進する必要があるのは言うまでもない。一方で、地球環境との共生には、分「科」した「科」学技術に限界があるのも事実である。東日本大震災に遭遇したわが国においてこそ、良き生に貢献できる文理統合型の学術が深化することが望まれている。(山形)
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