Ocean Newsletter
第268号(2011.10.05発行)
- 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授◆佐藤愼司
- 公益財団法人原子力安全研究協会会長◆松浦祥次郎
- 海の中道海洋生態科学館 館長◆高田浩二
- 「21世紀の海洋教育に関するグランドデザイン」が完成
- ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男◆なかなか爽やかな季節にならない。9月になっても小笠原高気圧が強盛で、偏西風の位置が通常よりも北偏しているために、進路を遮られた台風が南方から湿気に富む風を吹き込む。特に台風12号は記録的な豪雨により深層崩壊と呼ばれる深刻な土砂災害をもたらした。詳しい解析を待たねばならないが、インド洋に発生したダイポールモード現象と太平洋のラニーニャもどき現象の相乗効果によるフィリッピン周辺の強い上昇流が原因だと考えている。
◆今号では、佐藤愼司氏に津波防災のあり方について考察していただいた。今回の東日本大震災を引き起こした津波は千年に一度のものであったという。構造物の耐用年数が一世代程度だとすると、これだけで防ぐのは費用対効果の面でも持続可能な対応とはいえない。地勢に加えて産業形態など地域の特性に配慮して、復元力のあるインフラの整備を行ってゆく必要がある。
◆津波災害からの復興に加えて、福島第一原子力発電所の崩壊と放射性核種の飛散が深刻な問題を私たちに突き付けている。このような状況にあって、原子力工学をタブー化する風潮が強まっている。しかし、原子力エネルギーへの依存を一気にやめることは不可能である。原子炉制御技術の安全性を高め、かなりの期間つきあってゆかねばならないのである。いまこそ、原子力政策と研究開発の歴史を冷静に俯瞰する必要があるのではないか。このような視点から、原子力船「むつ」の開発に深くかかわってこられた松浦祥次郎氏に寄稿をお願いした。ちなみに、「むつ」は1995年に原子炉を取り除かれ、翌年に(独)海洋研究開発機構の海洋観測船「みらい」として再出発した。現在はエルニーニョ現象の国際共同観測などで活躍中である。
◆高田浩二氏は水族館における活動にとどまらず、海洋教育と人材育成に貢献してこられた。長年の経験に基づき、飼育する水族に礼を尽くす水族館人としての心意気を語っていただいた。「マリーンワールド海の中道」が1989年に開館した頃、私は福岡市に住んでいた。まだ幼かった子供たちを連れてよくドライブに出かけたが、志賀島に向かう途中で視界に入った、貝を模した美しい建物を今も鮮明に記憶している。(山形)
第268号(2011.10.05発行)のその他の記事
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- インフォメーション 「21世紀の海洋教育に関するグランドデザイン」が完成
- 編集後記 ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男