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オーシャンニューズレター

第266号(2011.09.05発行)

第266号(2011.09.05 発行)

黒潮のエネルギーを活用した複合型発電計画

[KEYWORDS]海流発電/海洋温度差発電/事業成立性
NPO法人海ロマン21理事◆井上興治

世界最大級の海流をもつ黒潮。その運動と温度差のエネルギー・ポテンシャルは膨大であり、年間を通して比較的連続かつ安定的であるという特徴を有していることから再生可能エネルギーとして有力であると考える。
黒潮のエネルギーを活用した複合型発電計画の構想について紹介したい。


黒潮が包蔵する海流と温度差のエネルギー・ポテンシャルは膨大で、かつ、わが国特有の再生可能エネルギーである。海ロマン21では、それらを電力として活用する複合型発電計画を構想し、5つの海域を対象に技術的、経済的な観点から検討し事業の成立性を明らかにした。

黒潮の特徴と検討対象海域の状況

黒潮は、メキシコ湾流と並んで世界最大で最強流の海流である。文献によるとその流量は毎秒2,000万トン~8,000万トンと言われ、流速も最大5ノットに達することがある。また、表層の海水温度は、本州南岸沖においても夏季には25℃を超えるほどであるのに対して、水深800m付近の水温は4℃~5℃と年間を通してほとんど変化がない。
この運動と温度差エネルギーは、年間を通して比較的連続かつ安定的であるという特徴を有し、加えてほぼわが国の排他的経済水域を流れているという魅力的な海洋資源である。
各種の観測データに基づき、黒潮の流路に沿って沖縄西北海域、トカラ列島周辺海域、足摺岬沖海域、潮岬沖海域および三宅島周辺海域の5海域を検討対象海域として選定し黒潮の流速と水温の変動を分析した。流速変動については、各選定海域を経緯度15分メッシュ(約25km×25km)に数分割し、各メッシュ内で概ね50年間に観測された流速データから流速別発生頻度図を作成した。図に示したように、足摺岬沖水深100m付近における平均流速は2ノットを超え、最大4ノット弱となっており、対象海域のなかでは足摺岬沖から潮岬沖にかけて平均流速が最も速い。
また、各海域の水温を経月分析すると、表層は17℃~30℃超と変動するが、深層では4℃~5℃とほぼ一定である。海洋温度差発電において定格出力以上が期待できる温度差20℃以上の期間は、沖縄~トカラ海域では8~9カ月、足摺岬沖~三宅島海域では4~5カ月であった。

複合型発電計画の構想と概算建設費

■海洋温度差発電装置(OTEC)構想図

海流発電(OCT)と海洋温度差発電(OTEC)を同じ海域内で展開するファームタイプとOTECにOCTを連結したプラットフォームタイプの2つの複合型発電計画を構想した。
ファームタイプでは、商業発電としての単位である出力10万kW以上を念頭に、OCTは出力2MWの発電機4機を鋼製枠に組み込み5セットを水深200mに係留し、発電機は水深100m付近に浮揚し発電する構造とし総出力を40MWとした。また、OTECは半没水型の2層の浮体に出力100MWの発電装置等を内蔵し3本の取水管で取水する構造で、水深800~1,000mの海底に係留することとした。OCTとOTECの総発電出力は140MW(14万kW)の規模となる(各構想図参照)。
プラットフォームタイプは、実証試験施設の意味合いもあり、OCT4MW(2MW 2機)、OTEC10MWとファームタイプの1/10の規模で両装置を一体化することとした。
OCTとOTECの製作費と洋上での設置費用等を算定した結果、商業発電規模のファームタイプ複合型基地(出力140MW)の総建設費用は、概算2,290億円~4,090億円と見込まれ、実証試験規模のプラットフォームタイプ複合型基地(出力14MW)では、概算430億円~760億円と見込まれた。


■海流発電装置(OCT)構想図

各海域の年間発電量と発電コストの算定

OCTの年間発電量は、各海域の流速発生頻度図を用いて算定し、OTECの年間発電量は、海域の月別の海水温度差から正味の発電量を算出した。
その結果、ファームタイプの複合型基地(足摺岬沖を想定)の年間発電量は、OCTで62GWh、OTECで573GWh、合計635GWhとなった。これは、18万世帯の一般家庭の年間電力消費量に相当し、電力事業から排出される二酸化炭素約26万トン/年の削減規模に相当する。また、プラットフォームタイプの複合基地(沖縄~トカラを想定)の年間発電量は84GWhとなった。
概算建設費と年間発電量の算定結果から複合型発電基地計画における発電コストをOCT20年、OTEC30年と想定した期間回収法により算出した結果、ファームタイプ複合基地では12.4円/kWh~22.1円/kWh、プラットフォームタイプ複合基地では17円/kWh~31円/kWhとなった。因みに、原子力や火力の発電コストは6~8円/kWh、陸上風力は10~15円/kWh、太陽光は48円/kWh程度と言われている。火力や原子力に比べて割高であるが、各再生可能エネルギーの発電コスト比較においては十分比肩できる。また、発電量の売電価格を25円/kWhと想定した内部収益率法による分析では、複合型発電計画は両タイプともいくつかの海域において3%およびそれ以上の期待収益性が見込まれることが判明した。
多くの前提条件や不確定な要素があるものの新しい再生可能エネルギー事業としての成立の可能性は十分であると考察される。海域ごとに検討した結果を総括すると、足摺岬沖および潮岬沖海域はファームタイプに適しており、沖縄海域はOTEC単体に適している。トカラ列島周辺海域や三宅島周辺海域はより詳細な流況観測を行い成立の可能性の検討が求められる。

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にわかに再生可能エネルギーの利用促進への期待感が高まっているが、期待が上滑りにならないよう事業化の実現可能性を多角的に検討する必要がある。
黒潮のエネルギー活用に関しても海象データの蓄積、高効率の発電装置や安全な海上施工技術の開発、航行船舶や海域環境への影響評価などの課題に取り組むとともに地域との連携を深めて施策展開を図ることが必要であるが、そのためには、海外ではすでに設置されている実証実験海域をわが国でも早期に計画することが望まれる。(了)

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