Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第266号(2011.09.05発行)

第266号(2011.09.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆この夏も終わろうとしている。南方のフィリッピン周辺海域の強い上昇流による強盛な小笠原高気圧と北方の低い海水温に根ざすオホーツク海高気圧がせめぎ合い、日本列島の各所で記録破りの豪雨を記録するなど変動の激しい夏になった。特に、7月下旬には信濃川水系河川が氾濫し、甚大な気象災害が発生している。三条市ではこの期間の総雨量が1,000ミリにも達した。こうした気象災害の源は、この冬に豪雪をもたらし、海水温を低下させたラニーニャ現象やこの夏にインドネシア周辺海域の下降気流を強めたダイポールモード現象など、熱帯の気候変動現象にある。
◆気候変動現象の主役は熱容量の大きな海である。高々、一週間程度の持続性しかもたない空の現象だけを眺めていては根源に迫ることはできない。地球温暖化が進行する中で、気候変動現象が引き起こす異常気象を事前に予測し、その情報を減災や防災に役立たせることがますます重要になっている。これには気候予測モデルを高精度化し、天気予報モデルとの連携を強化してゆく必要がある。急速な展開を始めた気候サービス分野と既に成熟した気象サービス分野の交流を真剣に考える時が来ているのである。
◆今号では、東日本大震災発生の直後から広範な救援活動を展開した米軍の「トモダチ作戦」を秋元一峰氏に解説していただいた。同盟国による、この活動は2万人の人員、22隻の艦船、140機の航空機を投入して行われたが、その詳細は意外と国民に知られていない。作戦名が象徴するように、この救援活動は心温まるものであった。しかし、この活動を単に情緒的な面から眺めていては、国際政治のダイナミクスを見失うことになる。急激に変化する東アジア情勢の中で、海洋国家である日米両国が太平洋の島嶼国家の安全・安心を緊密に連携して保証するという、強いメッセージを世界に発信することになったことも見逃してはならない。
◆東日本大震災に伴って壊滅的な打撃を被った福島第一原子力発電所はわが国のみならず世界各国のエネルギー政策のあり方に根本的な問題を突き付けることになった。再生可能エネルギーの比重を大きくしてゆくことは歴史の必然である。ここで井上興治氏は黒潮の流れと海水温度差を活用する複合的な発電計画を提案している。実用化には空母を建造するのに匹敵するような資金が必要であろう。しかし、日本列島の庭先を地球スケールの黒潮が流れている。この地政学的有利性を生かして、平和的な「海洋大作戦」を始めてもよいのではないか。
◆茂里一紘氏は海洋開発全般における海洋空間の活用についてオピニオンを展開している。海洋資源開発は文字通りの開発であるが、氏は地球環境保全に貢献する開発を「もう一つの開発」と定義する。船舶の形やエンジンの改良等で燃費効率を上げ、温暖化気体の放出規制に貢献するような分野である。編集者も衛星やコンピュータを用いた海流予測により、外航船の燃費を節約するシステムの開発に関与してきたが、わが国の総合的な科学技術力で、この「もう一つの開発」面でも世界をリードしたい。茂里氏が力説するように、強い科学技術に裏付けられた外交は強いのである。(山形)

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