Ocean Newsletter
第263号(2011.07.20発行)
- 衆議院議員、海洋基本法フォローアップ研究会代表世話人◆川端達夫
- 日本財団会長◆笹川陽平
- 岩手県知事◆達増拓也
- ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所・教授)◆秋道智彌
津波被害あろうと海を怨まず
[KEYWORDS]海あっての日本/海洋基本法フォローアップ研究会代表世話人/海洋エネルギーの開発・利用促進衆議院議員、海洋基本法フォローアップ研究会代表世話人◆川端達夫
津波による大災害をこうむりながらも、海を怨む日本人はいない。
日本は、海から生きる糧を得、海の彼方から文物を得てきた。
自然への畏敬を失うことなく、人と自然の調和を念頭に災害復興を進めなくてはいけない。
洋上風力発電や波力発電の開発・利用については、"きれいごと"の域にとどまることなく推進しなくてはならない。
海によって暮らす
本年3月に三陸沖で発生した大地震は、東北地方を中心に、わが国に未曾有の被害をもたらし、多くの人命が失われました。
被害の主因となったのは、地震によって起こった津波でした。日本に恵みをもたらしてきた海が、牙をむきだしにしたと言えます。
怨み多き海であるはずですが、被災した漁民が、破損をまぬがれた船で海に漁に出かける時の生き生きとした表情がテレビに映し出され、それが印象的でした。また、豊かな森が豊かな海を育てるとして「森は海の恋人」の運動をされていて、被災した牡蠣養殖の畠山重篤氏が次のように語っていました。
「これだけ海に蹂躙されながら、海に怨みをもつ人はいない。私もその一人だ」
古来、日本人は、海とともに生きてきました。海があって日本があったのです。島国に住む日本人は舶来品を喜びます。古くは中国大陸、朝鮮半島から、近代になっては欧米からの文物を喜びました。今でこそ、その性向は薄れつつあるようですが、船に乗って海を渡ってきたものを貴ぶ傾向は日本人の心性の底流にあります。
また、日本人の食料生産のベースにあるのは、稲作漁撈です。対して、世界には麦作や牧畜を中心とする人たちも多く、生活や思考のパターンを異にしています。ともかく、わが日本においては、海の幸がわたしたちの命を育んできたと言えます。
明治維新の後は、日本は欧米化の道をひたすら走り、大戦を経て、世界有数の経済大国にまで成長しました。その基本構造は、資源を海外から輸入し、日本で製造・加工し世界に販売するというものでありました。すなわち、富の多くを海の向こうに頼るという姿です。これから、日本が世界の中で生きていくためにも、誤りなき海洋政策の推進が最重要課題のひとつであります。
海洋立国の視点からの復興対策
■第12回海洋基本法フォローアップ研究会が5月27日に開催され、「東日本大震災復興に関する海洋立国の視点からの緊急提言」をとりまとめ、枝野官房長官に提出した。
私は昨秋、菅 直人第二次改造内閣で、髙木義明氏が文科相に就任したことをうけ、「海洋基本法フォローアップ研究会」の代表世話人を引継ぎました。2006年の研究会発足以降、海洋基本法の制定をはじめ、わが国の海洋政策の推進に大きな役割を果たしてきた当会で重責を得ましたことは大変名誉なことであり、その責務を遂げるため全力をあげてまいりたいと思います。
5月には、東日本大震災の復興に関し、海洋立国の視点からの緊急提言※1をまとめ、官房長官に提出したところであります。
緊急提言は、沿岸域の復旧・復興、地震・津波予知システムの構築、生態系等の持続的海洋調査システムの構築、水産業の復興、海洋における再生可能エネルギーの開発・利用促進、多面的活用ができる浮体施設の整備等を盛り込みました。われわれの持てる力をフルに活かして一日も早い豊かな海の復活を実現させたいものと思います。さらに、それらは、自然のもつ力への畏敬の念とともに推進すべきであります。人と自然の領分とも言えるものをわきまえて着実に復興を進めていかなくてはなりません。
津波による被害が甚大なものとなった原因のひとつには、人為の防災に対する過信があったのではないかと思います。人の手で造り上げた堤防は、自然の猛威にはひとたまりもありませんでした。このことを忘れず、今後の対策を進めるべきと思います。
海洋におけるエネルギー開発
当会としては、昨年6月にまとめた「新たな海洋立国の実現に向けた提言」※2を海洋施策の中で着実に推進させていくことが基本課題であります。海洋をめぐる政策課題は、資源、景観、産業、防災、外交・防衛など多岐にわたります。
エネルギー分野でもいくつかの提言をしております。東京電力福島第一原子力発電所の事故の発生により、わが国のエネルギー政策全体の再構築が迫られております。原子力発電における安全性を高めていくことが基本になるかと思いますが、自然エネルギーが今までに増して注目されております。
菅 直人総理は、先般パリ、ドーヴィルで開かれたOECD、G8サミットの場で、「国内の全発電量に占める自然エネルギーの割合を2020年代のできるだけ早い時期に20%にする」と世界の首脳の前で表明しております。その実現は、生易しいものではありません。われわれに多大の努力を求めるものであります。
海洋面では、洋上風力発電、波力発電等の開発・利用が考えられます。実際に推進するには観測、装置等の技術開発をはじめ、コストや運営システム等、クリアすべき課題が山積しております。海洋基本法フォローアップ研究会としても、積極的取り組みを提言しているところでありますが、浮ついた議論を排し、実りある前進が得られるよう推進したいものと思います。
知と力を結集し、災害復興、新しい海洋立国を実現していこうではありませんか。(了)
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