Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第263号(2011.07.20発行)

第263号(2011.07.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所・教授)◆秋道智彌

◆東日本大震災が発生してから4カ月あまりが経過し、暑い夏を向かえた。今年の「海の日」は特別の日となった。いまだ行方不明のかたがたはこの広い海のどこかで眠っておられるかとおもうと、青い海がうらめしくさえおもえてくる。被災された一人ひとりの方が絶望と不安から立ち上がられることは、時間がたってもけっして生やさしいことではないだろう。「がんばろう」「つながろう」はこの数カ月何度も耳にしたことばだ。
◆本誌に掲載のオピニオンは、いずれも震災復興をテーマとした力強い内容となっている。海洋基本法フォローアップ研究会代表世話人の川端達夫衆議院議員は、海洋立国の立場から復興対策を進めるべきと提言を出されている。これまでの復興プランは、名前だけにせよ総合性、重層性をうたい文句としてきたが、海洋立国としての総合的観点を前面に出したものとして評価すべきではないか。しかも、人間の力には限界があり、自然への畏敬の念を忘れずに復興政策を推進すべきという考えに賛意を表明したい。
◆笹川陽平日本財団会長は、財団としての支援活動を集約する立場からの提案をされている。まずは震災支援のありかたについて、財団独自の実践がある。震災直後の「緊急支援ステージ」では、義捐金ではなく「支援金」であるとの認識から、被災者への直接手渡しの支援をされてこられた。必要なものを必要な人に直接渡すという精神で、中間マージンをとられてなどいては支援の意味がないというわけだ。引き続いて「復興基盤支援のステージ」では、漁船被害者を対象とした長期的な無利息融資、小型船修復事業などを手掛けられている。そもそも支援とはこうした優先性、即時性、大胆性、緊急性、柔軟性を踏まえるべきであることを大いに納得できた。
◆岩手県は宮城県とともに、とくに沿岸部で今回の災禍をもっとも大きく被った。達増拓也岩手県知事は、復興の長期ビジョンとして、世界に誇る新しい「三陸創造プロジェクト」を提案されている。縄文時代から人びとは沿岸の豊かな海の幸を享受して三陸地域に住みつづけてきた。歴史上、何度も襲った地震津波にもかかわらずこの地方の縄文集落は津波をかぶることのない高台にあったことは注目しておいてよい。たとえば、上閉伊郡大槌町にある縄文時代の崎山弁天貝塚は海岸の台地に立地している。もっとも海岸低地の居住地は流されたこともあっただろう。近世期には三陸産のアワビは俵物として清国へと運ばれた。三陸沿岸は豊かな資源を人間にもたらすとともに、生物多様性の宝庫といえる生態系を有する地域でもある。この地域が沿岸の海洋生物研究のメッカとなることで世界的にも注目されることは決して夢ではない。山田町の船越湾には世界で最長7mのタチアマモの群落がある。わたしたちは、沿岸域の海の幸や海洋生物多様性をささえてきた背景には海底湧水があるとにらんでいる。震災発生直後の緊急事態から半年、1年、そして数年先と推移するなかで、海と人びとの暮らしをともに見据えた活動に日本の海の未来を「海の日」に見出した思いだ。「がんばろう」(秋道)

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