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オーシャンニューズレター

第260号(2011.06.05発行)

第260号(2011.06.05 発行)

東日本大震災における海上保安庁の活動について

[KEYWORDS] 東日本大震災/海上保安庁/震災対応
海上保安庁長官◆鈴木久泰

海上保安庁は、全国から多数の巡視船艇・航空機等を派遣し、360人の被災者を救助し、また、福島の原発周辺海域の監視警戒、被災港復旧、航路標識の復旧や航行警報等による海上の安全確保などにあたるほか、支援物資の緊急輸送を行うなど、震災対応に取り組んできた。
引き続き、全力をあげて震災に対応するとともに、被害を受けた巡視船艇・航空機の体制の早期回復を図り、尖閣諸島など緊張を増す国際情勢にもしっかりと対応していく。

海上保安庁の役割と対応勢力

3月11日に発生した東日本大震災は、5月22日現在で死者15,179名、行方不明者8,803名という未曾有の被害をもたらしました。この震災によって亡くなられたり被災された皆様に心から哀悼の意を表するとともにお見舞いを申し上げます。
今回の震災で、海上保安庁は、全国から多数の巡視船艇・航空機等を派遣して、人命救助や行方不明者の捜索にあたり、また、福島の原発周辺海域の監視警戒、被災港復旧のための水路測量、航路標識の復旧や航行警報等により海上の安全確保にあたるほか、被災地に支援物資を緊急輸送するなど、全庁挙げて震災対応に取り組んできました。
地震発生直後においては、わが国の海岸域のほぼすべてに津波警報や注意報が発表されたことから、全11管区において、巡視船艇349隻、航空機46機を発動させて警戒にあたりました。その後、捜索・救助に威力を発揮するヘリコプター搭載型大型巡視船をはじめとして、54隻の巡視船艇(うち他管区からの派遣35隻)、18機の航空機(うち他管区からの派遣15機)の勢力を全国から東北地方太平洋側に集結させて対応しました。これらの巡視船艇を青森船隊、岩手船隊、宮城船隊、福島船隊、特任船に分け、各指揮船を決めて効率的に業務にあたるとともに、被災地の第二管区海上保安本部への応援職員や各県の対策本部へのリエゾンも翌日には派遣しました。これらの迅速な初動体制の構築では、全国組織である海上保安庁の利点が発揮されたものと考えています。

海上保安庁の活動状況


■孤立者62名を鳥羽海上保安部所属巡視船いすず搭載のゴムボートおよび監視取締艇により救助。(3月12日、石巻港付近)


■潜水士(巡視船いず、および巡視船くろかみ)によるがれきの下の潜水捜索を実施。(3月22日、いわき市久之浜)

(1)生存者の捜索・救助
今回の震災では、津波で多くの方々が海に流されたり、陸上で孤立したことから、海上保安庁では直ちに総力をあげてこれらの方々の捜索・救助にあたり、360名を救助しました。この中には、造船所で建造中の貨物船2隻が作業員112名を乗せたまま漂流したためヘリコプターが吊り上げ救助を行ったケースや、港近くの幼稚園が冠水して園児を含む62名の方が孤立してしまったため、巡視船搭載のゴムボート等で救助したケースなど、近年の災害では経験しなかったような大規模な救助活動もありました。また、海上保安庁では海中の潜水捜索も実施していますが、瓦礫や魚網などが浮遊・散乱し、視界が場合によっては50センチ程度という苛酷な状況にある中で、障害物から身の安全を守りながら、行方不明者を捜索して収容することは危険と困難を伴う任務です。ある港では、被災地の強い要望で2日にわたり捜索を実施してご遺体を1体発見するにとどまったにもかかわらず、地元の消防分団長から「寒く海底状況も最悪の捜索状況の中での懸命の捜索に深くお礼を申し上げます。これで気持ちを切り替えることができ、明日からは復興に向けて一つのステップを踏むことができます」という言葉をいただき、却ってこちらが励まされることもありました。潜水捜索は、これまで205箇所で延べ250回実施しましたが、まだまだ要望が強く継続している状況です。また、潜水捜索で収容した28体を含め全体で218体のご遺体を収容しています。
一方、海上では、港から流されて漂流する船舶での生存者の確認を進めており、これまで455隻の漂流船を調査し、すべて無人であることを確認しました。漂流船の多くは使用が困難となっていますが、使用可能と見られる船舶は巡視船で曳航して、所有者に連絡して引き渡しており、これまで72隻を曳航し、うち44隻を所有者の手に戻すことができました。残りの38隻はいくつかの港湾に設けられた仮係留所で保管しています。

(2)輸送路の確保
今回の震災では、地震と津波で道路や鉄道が各地で寸断され、被災地では飲料水、食料、ガソリンをはじめとして様々な物資が不足しました。このため、大量輸送が可能な海上輸送路を一刻も早く確保する必要があり、海上保安庁では、港湾局と共同で拠点港湾の機能回復にあたりました。港湾局が港内に流出したコンテナ、車両等を除去し、そこを海上保安庁の測量船が水深を測量し安全を確認して供用開始するという役割分担で作業を進め、地震から4日後の3月15日に常陸那珂港、釜石港が一部供用開始したことを皮切りに、26日までに東北、北関東地方の14の拠点港湾すべてが一部岸壁の供用を開始し、現在も供用岸壁の拡大に努めています。
一方、福島第一原発の事故に対応して、警戒区域の設定や航行時の留意事項について航行警報等を発出するとともに、巡視船による監視警戒を実施しています。事故発生直後は、放射能への恐怖心から民間船に航行を避けたがるような動きもありましたが、巡視船を配備して、そのさらに沖合いを航行するという形をとったことで、首都圏以西と被災地域や北海道を結ぶ重要な海上輸送路の安全と安心が確保されるようになりました。

(3)被災者への物資輸送・現場支援
海上保安庁では、地方自治体の要請等を受け、緊急支援物資の輸送や巡視船の浴室を提供するなど、様々な支援を行いました。また、陸上からのアプローチが届きにくい離島や岬の突端部等の集落に海上保安官がヘリコプターで降下して、必要な物資を提供したり、要望を調査して自治体や自衛隊につなぐといった海上保安庁ならではの支援を実施して地域に貢献しました。

(4)海上保安庁の被害状況
今回の震災では、海上保安庁の施設も大きな被害を受けて業務執行が不能な状態になりましたが、釜石保安部、気仙沼、宮古、石巻の各保安署は4月中下旬に仮庁舎を確保して移転することができました。現場職員は、地元とともにしっかり復旧、復興していくために地元での業務継続を強く希望していたので、態勢が確保されたことは大いに望ましいことです。また、津波で流され座礁した1,000トン級大型巡視船「くりこま」が、4月10日にサルベージ船によって造船所に曳航され障害状況を調査しており、今後修理を行うこととしています。

今後の対応

これまで見てきたように、海上保安庁は震災対応に全庁をあげて取り組んできましたが、被災地では今なお多くの方々が行方不明となっており、復興も漸く緒についたばかりです。海上保安庁は、引き続き、捜索救助や輸送路確保等の震災対応に全力をあげていきます。また、尖閣諸島など緊張を増す国際情勢にもしっかりと対応していかなくてはなりません。
これらの任務に的確に対応するため、震災で被害を受けた巡視船艇・航空機等の体制を早期回復させるとともに、1万2,600人の海上保安庁職員が高い士気をもって業務に取り組んで参りますので、引き続き皆さまのご理解、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。(了)

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