◆東日本大震災の発生から三ヶ月が経過し、早くも芒種の節気となった。いかなる天変地異があろうとも、季節は確実に巡ってくる。大津波に襲われた太平洋沿岸地域でも、一部では塩抜きをして田植えが始まった。わが国の初夏の味覚の一つ、初鰹の水揚げに向けた努力も、港、船、餌の確保など多くの困難を乗り越えて開始された。このように日々の生産活動が逞しく広がってゆくことは復興に向けた希望の灯が広がってゆくことでもある。◆震災時の混乱が収まるにつれて、官や民がどのように対応したか、その全貌が次第に明らかになりつつある。今号ではまず海上保安庁と内航海運業界による活動を取り上げた。海上保安庁長官の鈴木久泰氏には人命救助、行方不明者の捜索、海上輸送路の確保と物資輸送、安全航行支援などで果たした極めて重要な役割について解説していただいた。新聞やテレビなどではあまり紹介されていないが、緊急時における、現業官庁の迅速かつ的確な救援活動が無かったならば、災害はもっと深刻化し、より多くの悲劇が生まれていたであろう。被災した人々がもっとも心強く思ったのは、こうした現業に携わる方々の高い職業倫理と日々の訓練に基づく献身的な活動だったに違いない。私たちはこのことをより深く理解すべきである。◆野口杉男氏には内航海運界が燃料油、畜産飼料、生活物資、車両などの緊急輸送に果たした役割について解説していただいた。緊急物資輸送量は4月28日まででも210万トンに及ぶという。そこで野口氏は国内の沿岸海上輸送を自国船舶に留保する海運カボタージュ制度にも言及している。この制度は国難時にその意義が明確になるものである。今回の大震災においては、世界の多くの国々から暖かい支援の手が差し伸べられたが、一方で尖閣諸島周辺海域や北方領土等では近隣諸国による牽制活動も見られた。これは理想主義に走る危険性とともに、現実の世界とのバランスにこそ叡智の効かせどころがあることを教えているのではないだろうか。◆東日本大震災では瓦礫だけでなく大量の陸上物質が沿岸海域に運ばれ、生態系に大打撃を与えているはずである。海洋生物環境の再生と生産性の復活が今後長期的に取り組むべき重要なトピックとして浮上してくるのは間違いない。中田英昭氏は大村湾における環境修復を目指して、地域の漁業者らと新しい試みを開始している。それは海底から空気を広範囲かつ継続的に供給する「散気」によるものである。この手法が総合的な沿岸域管理の見本ともなるべき里海再生に向けて、広く定着するかどうかを興味深く見守ってゆきたい。(山形)
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