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オーシャンニューズレター

第255号(2011.03.20発行)

第255号(2011.03.20 発行)

ボートピープル・アソシエイション、素人たちによる水辺の活動

[KEYWORDS] 都市の水辺/水上経験/水辺空間の創造
ボートピープル・アソシエイション◆岩本唯史

「都市の水辺が面白い」そう考えている人は意外と多い。ボートピープル・アソシエイションの「素人」たちの水辺での活動によって、多くの人々が水辺への関心を高めている。
多くの人が水辺のポテンシャルに関心を寄せることになれば、明日の魅力ある水辺空間(≒都市)創造の大きな力となるであろう。

素人たちによる水辺の活動


■LOB号(2005)。ゴミ運搬船だったバージをラウンジに改修し、アートイベントで展示した。(写真:(c)Satoshi Asakawa)

ボートピープル・アソシエイション(以下BPA)は建築家やシステムエンジニア、都市コンサルタントなどによって構成される、都市の水辺を活動領域としている団体である。なんだか堅苦しく聞こえてしまうが、平たく言うと、水辺が大好きな人たちが寄り集まってできた小さな集団である。集まった経緯はさまざまだが、水辺が好きでなんとかしたいという思いが、奇跡的にメンバーをつなげたと言えるであろう。メンバー構成が比較的若い(20~40代)ということも私たちの特徴かもしれない。主に東京、横浜で活動している。
BPAのメンバー全員が、都市の水辺のポテンシャルは高いと感じている。東京都中央区の面積のじつに18%が水面であるが、あまり利用されていない。海外のように水辺でにぎやかなイベントが行われたり、そこを憩いの場として市民がもっとアクセスしやすくなれば、水辺のみならずその後背地の都市も魅力が増すはずだと考えたのである。いわば都市の問題として水辺を扱い始めたといって差し支えない。
実はメンバーのひとり井出はかつて芝浦でこっそりバージ船を改装してラウンジを営業していた。2000年頃のことである。バージ船にはテントの屋根がかけられて、中にはウッドデッキ、キャンドルの灯り、すわりごこちのいい椅子、常に体に感じるかすかな揺れ。夜な夜なさまざまな出会いがあり、多くの人に愛されたこのバージ船「LOB号」だが、度重なる役所との協議の末、閉鎖することになってしまった。バージ船を係留するためには、係留許可が必要だが、公共水面において店を営業するための許可制度というのは存在せず、法に照らし合わせて係留し続ける根拠はなかったが、確かにそのとき芝浦の運河では素敵なコミュニティができあがった。居心地のよい船の上のラウンジが人々の憩いとなり、生活に潤いをもたらし、コミュニケーションが増進することを目の当たりにした私たちは、たとえこれが現行制度に照らし合わせて成立しないとしても、その魅力と社会的意義を伝えて行くべきであると考えたのである。そのためのメソッドは「実践的体験を共有すること」。そして、テーマは「都市の新しい水上経験」である。

都市の新しい水上経験


■水辺を普通に使おうとしても、現状では乗り降りする場所の制約があり難しいことを身をもって経験した「食材を上流に取りにいってみるツアー」

(1)水辺から都市を再発見する=「クルージングマップ」
普段見慣れた街も船から見ると視点が変わる。陸地からでは気にならないようなこと、例えば、建物がいかに背を向けているか、船を係留する場所の少なさ、動植物や自然を感じる瞬間、潮の香、干満の差。そういったことを地図にまとめたのが「キャナル・クルージングマップ」である。いままでこういった種類の地図はあまりなかったようで、そのこと自体、水辺が生活から遠くなってしまっていることを実感した。

(2)水上ラウンジの魅力=「LOB13 -II」横浜トリエンナーレ2005
ゴミ運搬船だったバージをラウンジに改修し、アートイベントにて展示した。多くのイベントやシンポジウムを水上で行うことができ、水上の可能性をたくさんの人に体験していただいた。横浜市が市を挙げてバックアップしていたアートイベントであったことによってようやく特別に係留が許可された、という点も特筆すべきことである。

(3)防災と船の関係=「LOB FEP」号 平成18年度全国都市再生モデル調査事業
トリエンナーレの後、バージを防災のために活用するべくさらに改修工事をほどこした。阪神淡路大震災で水上交通が見直されたと聞いたことがきっかけだった。太陽光発電、バイオディーゼル発電など陸のインフラから切り離された独立したエネルギー源を持ち、被災地に曳航されていった場合どんなことに役に立ちうるかを考察するための実証実験船である。心の被災をケアすることも考え、食事やアートの展示なども行われた。災害時だけではなく平時に使っておくことの重要さなどたくさんの示唆を発見し、内閣府の平成18年度全国都市再生モデル調査事業にて報告書にまとめた(「京浜運河の既存ストック・バージ船の多目的利用に関する調査」)。

(4)親しむためのさまざまな視点=クルーズイベント「LIFE ON BOARD」
BPAが企画するクルーズは、コースも内容もさまざまである。名前だけ見ても「東京低地クルーズ」「横浜キャナルクルーズ」「江戸の水迷宮」「神田アイランドナイトクルーズ」「京浜運河+羽田空港D滑走路」など、それぞれコースによって視点が異なることが分かろう。
参加者に聞くと、その多くが水面を小舟で往来するためには許認可が必要だと思っているようだが、本来は自由に使っていいことになっている。嬉しいことに、帰るころには多くの乗船者が川や運河を身近に感じてもらえるようで、最近では参加者が企画者となって独自のクルーズを行うようになっているようである。
きっかけさえあれば、たくさんの人が水辺に親しむことができることを、まさに実感している。

素人集団であるBPAが水辺で活動することの意味

BPAは言うまでもなく、素人の集まりである。誰に頼まれた訳でもないし、港で舟運を業としている人たちや漁業を生業としている人たちには遠く及ばないかもしれないが、それでも好きなので水辺に関わりをもっていたい。
水辺は利用頻度の高い業務に携わる人々のためだけに整備されていた時代が長く続いた。しかし、最近になって、伝統的な利用はだいぶ衰退しているように感じられる。今年、隅田川をつかった丸太運搬はなくなってしまったという。流域の貯木場は使われることのないまま数十年放置されているが、多くの人がこのことを知らない。
これまでも先人都市計画家たちによるすばらしい水辺の計画案はたくさんあった。しかしそれは親しむ人々の関心を引き出すという制度設計まではなかったようで、どれも夢物語で終わっている。われわれの活動を通して、想像するよりも多くの、われわれのような「素人」たちが水辺の空間に関心をよせていて、なにかきっかけを与えればそれが表面化することを感じてきた。
BPAはこれからも「都市の新しい水上経験」をテーマに、水辺の魅力を再発見し、実践的な活動を、継続的に行うことによって多くの「素人」たちの関心をひきだし、先人たちがなし得なかった市民のための魅力ある水辺空間の創造につなげて行きたいと考えている。(了)

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