Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第255号(2011.03.20発行)

第255号(2011.03.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆本号の3篇のオピニオンは船が共通の話題である。船といっても大小さまざまであり、人とのかかわりも時代や場所によっていろいろとちがっている。ボートピープル・アソシエーションの岩本唯史さんは、東京湾を中心とした都市空間の水辺における体験普及を目指したユニークな活動を展開されている。ボートピープルと聞けば、東南アジアで漂海民と呼ばれる人びとや、瀬戸内海の家船集団、ベトナム戦争時代の難民、あるいはカンボジアのトンレサープ湖の湖上で船住まいする人びとなどを想起してしまう。だが、岩本さんはお膝元の東京湾で、海から都市を見るという視点とその意義を提起されている。漁民や港湾労働者の数が目に見えて少なくなっている現代、「素人集団」ののびのびした活動の普及にエールを送りたい。
◆おなじ東京湾の横浜では、環境共生型のライフスタイルを提唱する活動の一環として、シーカヤッキングが注目されている。そのニーズが意外と高いことを(社)横浜水辺のまちづくり協議会の竹口秀夫さんが指摘されている。アウトドア活動としてのカヤッキングは全国各地で行われてきた。野田知佑さんらの活動もよく知られている。だが、カヤッキングが自然とふれあう活動としてあるだけではなく、大都会の港湾ゾーンを利用するものとする位置づけは新鮮だ。もちろん、そのことは利用上のさまざまな問題を内にはらんでいることは自明のことだろう。この点でのルール遵守、行動規範は、陸上における車や歩行者の守るべきルールよりも異質の面があり、今後の指針作りにとり注目すべきと考えられる。
◆ボートピープルやシーカヤッキングのいわば小型船による活動にくらべて、明治時代に大洋を駆け巡ったわが国の大型船、明治丸のたどった軌跡は近代のあけぼの期におけるスターの道であった。東京海洋大学の今津隼馬副学長は、明治丸のなしえた数々の功績を後世に伝え、劣化した船の修復を兼ねた明治丸海事ミュージアム構想を提案されている。明治丸は江東区の越中島にある。小笠原諸島領有問題、明治天皇陛下のご乗船など、日本の近代史を語る上で欠かせない経歴をもつ船を保存する意義はたいへん大きいといえるだろう。
◆考えてみれば、本号の3篇のいずれもが東京湾に話題が集中している。明治から現代まで、変貌してきた東京湾にはさまざまな船とかかわる人びとの語りがあることになる。ウォーターフロント論が取り上げられて久しいが、海からの具体的な提案は心強いかぎりだ。春の宵、水辺に足を運んで、ベイ・オブ・トウキョーの今昔に思いをはせてみたい。(秋道)

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