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オーシャンニューズレター

第255号(2011.03.20発行)

第255号(2011.03.20 発行)

シーカヤックで横浜港インナーハーバーを

[KEYWORDS] 水面利用/行動規範/シーカヤック
(社)横浜水辺のまちづくり協議会 理事◆竹口秀夫

横浜の水辺のまちづくりの一環として、船舶の運航が錯綜する横浜港のインナーハーバーで、シーカヤックを安全で、安心して楽しめる条件づくりとして、シーカヤッカー、事業者の行動規範としての「水辺利用のルールづくり」に取り組んでいる。


シーカヤックなどで港や川を自由に往来できる、そんな水辺目線の横浜のまちづくりのために様々な活動をすることを目標に、2009年5月「横浜水辺のまちづくり協議会」を設立。その具体的事業として「水辺利用のルールづくり」に取り組んでいる。本稿ではその概要を報告し、多くの方からご意見、ご示唆を頂きたいと考えている。

今、何故、ルールづくりか


■赤レンガパーク前でシーカヤック体験授業

シーカヤック等の手漕ぎボート(以下「カヤック」という)は、環境共生型のライフスタイルの定着、レジャー活動の多様化に伴い、着実に利用者が増えている。また、カヤックは、視点が低いため「水」や「まち」の見方を大きく変え、環境政策や、まちづくりに新たな視点を提起することも期待される。
カヤックは、小型船であり、無動力のため、安全・安心して操船するためには、操船者の技量はもとより、操船場所の自然、社会環境に大きく影響される。すでに、沖縄県、伊勢湾、知床半島等自然環境に恵まれた地域では、名称はともかく、安全、安心して操船するためのルールづくりが進んでいる。
ところで、この横浜でシーカヤックにより水面を利用することについて、マリングッズの利用者やスクールの受講生等に対してアンケートを実施したところ、交通至便で、美しい都市景観や産業が集積する横浜港のインナーハーバーを利用したいニーズがきわめて高いことが判明した。
横浜港の内水面は、港湾物流が変化し、その中心は東京湾に移り、往時に比較すれば、船舶の航行は減少したものの、内航船や水上交通、さらには屋形船、遊漁船、観光船等で水面の利用は輻輳している。
現状のカヤック利用は、NPOシーフレンズに代表される技術的に、モラルにも優れたグループの関係者が限定的に利用しているが、広く、一般の人々に利用してもらうためには、カヤック一般の操船ルールはもとより、地域固有の課題に対応することが求められる。具体的には、(1)港湾区域であり、港則法を始めとした関係法規等を遵守すること、(2)業務船の理解と協力を得ること、(3)カヤックの存在を表示すること、(4)高く垂直な人工護岸であるため乗降場所を確保すること等が指摘できる。われわれは、カヤックが事業活動と両立しながら、水面利用を進める条件整備としてルールづくりが必要と考えている。

行政や関係事業者の理解


■「横浜港インナーハーバー」の概ねのエリア
「都心臨海部・インナーハーバー整備構想 提言書」にもとづいて作成(横浜市インナーハーバー検討委員会)」

水面の利用は法律等で特別の定めのない限り原則「自由」であり、「自己責任」でそこを利用することになる。しかしながら、自然海岸を乗降場所とするのではなく、人工公物を利用するため、港湾や河川管理者にその利用を認めてもらう必要がある。この場合、万一の事故が発生すると「管理行為瑕疵」を問われるため、その運用は消極的といわれてきた。しかし、今回の調査研究活動を通じて公有水面を安全、安心に利用してもらうことは、港湾や河川管理者にとっても重要なテーマと受け止めており、様々な課題をクリアーした上で実現したいという意欲を感じた。
計画レベルでも、「横浜港の適正な水域利用方針について(横浜市港湾局)」において「内港地区」は「貴重な水際線、水域の市民利用を推進する地区」とし、「都心臨海部・インナーハーバー整備構想 提言書(横浜市インナーハーバー検討委員会)」においてはインナーハーバーのビジョンの要素として「散歩やジョギング、水遊びやシーカヤックができる海辺づくり」を提案している。一方、河川においても「大岡川河川再生計画書」において「親水施設、多目的桟橋、緊急時の荷揚げ場」を計画し、「水の駅」の整備が進んでいる。
なお、事業者サイドとは今後より具体的な議論をすることになるが、カヤックがインナーハーバーを利用すること自体には概ね理解を示しており、事業活動との調和のあり方を今後つめていくことになると想定している。

行動規範としてのルールの考え方

ルールは、法令による規制ではなく、カヤック利用者が、安全に楽しく水面を利用するために、利用者が自ら主体的に取り組む「行動規範」であり、利用者をサポートする行政や民間事業者の取り組みのあり方を内容とするものである。その概要は、通航方法の基本(立ち入り禁止区域の明示を含む)、カヤッカーの心構え、安全対策であり、外国の先進事例も念頭に、業務船等の関係者との議論を踏まえ、理解と納得の上で明文化したいと考えている。なお、乗降場所の整備等行政や民間にお願いしたい社会条件のあり方についても取りまとめたいと考えている。
さて、ルールが策定され、横浜港インナーハーバーで、みなとみらい等の景観を背景にカヤックを楽しむ風景が日常化すると利用者の量的拡大が進み、そこに質的課題、即ち、操船技術の格差、地域を習熟していないための危険の増加等の発生が懸念される。結果としてトラブルの発生も想定される。私としては、「横浜水辺のまちづくり協議会」が中核となって、技術やルールの修得、各種情報の提供、トラブルの調整等を民間の事業として展開することがカヤックによる横浜港インナーハーバー利用の一般化、普遍化の鍵と考えている。(了)

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