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Ocean Newsletter
第24号(2001.08.05発行)
- 元運輸省船舶技術研究所長◆井上 肇
- 阿嘉島臨海研究所所長◆大森 信
環境保護団体SeaWeb科学アドヴァイザー◆Boyce Thorne-Miller - 鎌倉の海を守る会、神奈川県遊魚海面利用協議会委員◆奥田みゆき
- ニューズレター編集委員会編集代表者((社)海洋産業研究会常務理事)◆中原裕幸
水上バイクによる環境破壊
~物言わぬ魚にかわって、マリンスポーツのルール作りを提言する~
鎌倉の海を守る会、神奈川県遊魚海面利用協議会委員◆奥田みゆき手軽に免許が取得できることから、水上バイクを楽しむ人が増えたが、一部の心なきユーザーによる暴走行為を取り締まるルール作りや、漁業環境への深刻な影響を取り締まる法制度の整備等は遅れている。
平成の世になって、都市近郊沿岸や河川域にPWC(personalwatercraft)、いわゆる水上バイクが目立つようになった。もとは米国で川をのぼる足として開発された乗り物だが、波乗りの世界でも、サーファーが沖(アウターリーフ)の大波にのるため、また波に巻き込まれた場合のレスキューの手段として利用している。ところが日本国内では、水上バイクのために制度化された5級船舶免許が簡単に取得できること、その適応範囲が1海里以内という条件のため、暴走族さながら、河口や砕波帯の浅瀬をむやみに遊走したり、ブイのまわりをフルスピードで白波を立てて急旋回をくり返している人々をよく目にする。中には、蛇行運転をしながら、前を見ていない人すらいる。また、大型化する水上バイクの2サイクルエンジンの環境負荷の大きさも問題となっている。
マリンスポーツは海の自然の理を楽しむものである。モータースポーツである水上バイクは時にその理を壊してしまうことがある。特に狭い海域、静かな渚、潮目の複雑な河口付近で何台もの水上バイクが同時に走り回ることが、環境や他の海浜利用者にどのような影響を与えるか、神奈川県平塚市と鎌倉市を事例に考えてみたい。
平塚市の相模川河口は、シラスウナギ漁に栄え、鮎が遡上する川として古来よりその名が知られている。しかし、その河口と河川域で水上バイクが盛んになったため、さまざまなトラブルが発生。漁業者と水上バイク利用者の棲み分けをする自主ルールの策定が検討されている。砕波帯や砂の浅瀬や汽水域は、魚類の産卵と生育に大変重要であり、河口は成魚が遡上する起点でもある。夏のピーク時には200台もの水上バイクが疾走している現状を整理するのも苦労の多い話だが、人間の都合だけでゾーニングした平塚ローカルルール※では、生態系や上流の隣接する地域に配慮しているとは言いがたい。水は流れ生命はつながっているのだから、この問題は、一市町村単位で解決できるものではない。国全体で水上バイクを規制する法制度が必要なのではないか。
鎌倉市では、水上バイクライダーのモラルが問われている。酔っぱらいが海の家でレンタルしたり、プロテクターに身を包んだレーサーが周りを省みず、海水浴場を走り回る。そのため、キスやイシモチやチンチン、そして釣り人の姿も海苔網も消えてしまった。夏の夕凪には排気ガスの臭いが漂い、古都の風情も興醒めである。裸の子どもたちの横でエンジンを空ぶかししている光景には、危険を感じる人も多いはずである。
この現状に漁師さんも困っているのだ。ウインドサーファーは泣いているし、サーファーも憤まんやるかたない思いでいる。観光客は潮騒が楽しめず、海水浴においては恐怖すら覚えることもある。5級船舶操縦者のあり方を再検討し、全国的なローカルルールのための指針となる法的な整備が急がれている。
むやみに乗り回して遊ぶことだけが、水上バイクの役割ではないはずだ。沿岸域の保全や救助や砕波帯の調査等の有効利用を期待したい。一方、優れたライディング技術を披露する場ができれば、競艇のようなプロスポーツに成長する可能性もある。また、水上バイクメーカー各社の製造責任を明確にするとともに、メーカーからの利用者への働きかけも欠かせない。業界をリードするオピニオンリーダーの登場が待ち望まれている。(了)
※平塚市が支援して関係機関、団体で構成された委員会において策定された自主ルール。河口や港湾の出入りと漁業操業の安全確保のためのゾーニングが主な内容。罰則規定は特にない。
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- 編集後記 ニューズレター編集代表((社)海洋産業研究会常務理事)◆中原裕幸