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オーシャンニューズレター

第244号(2010.10.05発行)

第244号(2010.10.05 発行)

海上保安大学校学生の国際対応力向上について

[KEYWORDS] 海上保安庁/国際展開/国際交流プログラム
海上保安大学校教授◆山地哲也

国際展開する海上保安業務に従事するためには、国際対応力が求められる。これは、海上保安庁の幹部候補職員養成機関である海上保安大学校の学生の時期からも、様々な国際交流プログラムを通じ、修得されるべきものと考える。

海上保安大学校

海上保安大学校は、将来の海上保安庁の幹部候補となる職員を養成するための教育機関であり、広島県呉市に所在する。カリキュラムは文部科学省の大学設置基準に準じており、卒業時には日本で唯一の「学士(海上保安)」が授与される。海上保安大学校での教育期間は、本科4年と専攻科6カ月の合計4年6カ月であり、本科2年次後期から、航海、機関および情報通信の群に分かれ、それぞれ専門的な知識を修得する。一つの学年は45人程度で構成されており、寮生活を行いつつ、人格の陶冶とリーダーシップの涵養、高い教養と見識の修得、強靭な気力・体力の育成に重点を置いた教育訓練を実施している。

海上保安庁の国際展開

昨今、海上を取り巻く情勢が変化していくなかで、わが国周辺海域における海上テロの未然防止、国際組織犯罪の摘発などにより治安を維持し、同時に海上交通の安全を確保することがわが国の安定した経済活動を支える上でも極めて重要である。そのためには、海に接する周辺国の海上保安機関と治安、安全、救難、環境等の広い範囲の分野において連携・協力することが重要である。
また、わが国にとって生命線ともいえる海上輸送ルートである東南アジア海域における海上交通の安全確保と治安の維持は、わが国への物資の輸送という観点、また、わが国への密輸・密航の防止という観点から不可欠のものである。海上保安庁は、開庁以来約60年もの長期にわたり、警備救難、水路および灯台の各業務を三位一体として所掌し、海上における治安、安全、救難、環境等に関する屈指の機関として世界各国から認識されており、海上保安庁が有する知識・技能を東南アジア各国に伝え、東南アジア周辺海域の海上保安能力の向上を支援することが最重要課題と考えている。
このような基本的な考え方に基づき、海上保安庁は国際的な取り組みを戦略的かつ積極的に推進している。その取り組みを大別すれば次の4つになる。

  1. 多国間連携:北太平洋海上保安フォーラム、アジア海上保安機関長官級会合等
  2. 二国間連携:日韓海上保安当局間長官級協議、日印海上保安機関長官級会合等
  3. 東南アジア諸国に対する海上保安機関の設立支援・技術移転等:フィリピン、インドネシア、マレーシアに対する支援等
  4. 国際機関等との連携:国際海事機関(IMO)における取り組み等

海上保安大学校学生の国際対応力向上策


■海上保安大学校学生国際会議(平成22年7月2日)

国際展開する海上保安業務に対応するために、海上保安庁職員には当然のように国際対応力が求められる。これは、全国の各現場において外国人船員などを相手に安全指導や取り締まりを行うほか、国際会議の席上で日本の意見を主張し、相手国の意見にも耳を傾け、必要となる情報を収集し、分析する能力であろう。また、東南アジア諸国に対する海上保安機関設立支援などに際しては、対象国の文化、習慣などに対する理解も求められる。
海上保安大学校においても学生の時期から国際感覚の涵養を図り、国際対応力を向上させるため、様々なプログラムが提供されている。一つには、本科を卒業した後、専攻科において実施する世界一周の遠洋航海である。練習船「こじま」(総トン数約3,000トン)に乗船し実施するもので、今年度は、95日間、総行程約24,000マイルの実習を行っている。航海途中、米国(サンフランシスコ、ニューヨーク)、イタリア(ナポリ)、シンガポールに寄港し、国際連合本部や海上保安機関の施設見学、米国沿岸警備隊士官学校学生およびマレーシア海上法令執行庁職員との交流、レセプション等を通じ国際感覚の涵養とともに英語能力の向上を図っている。
また、本年6月下旬から7月上旬にかけ、海洋政策研究財団の支援を得て、9日間の国際交流促進事業を実施した。これは米国沿岸警備隊士官学校、カナダ沿岸警備隊士官学校、韓国海洋大学校から各2人の学生(計6人、うち1人女性)を日本に招聘し、海上保安大学校の学生との間で交流活動を行うというものである。6人の招聘学生は、海上保安大学校の学生と共に学生寮に滞在し、衣食住を共にした。まさに「同じ釜の飯を食う」環境の下で、共通言語を英語として、学生との間で交流活動を行い、メインプログラムとして学生国際会議を開催した。この会議では、プレゼンテーションやパネルディスカッション等を通じ、各校の教育制度、寮生活等、また、各国の海上保安制度について理解を深め、学生間の国際交流のあり方について意見交換を行っている。これらの他にも、笹川記念海上保安教育援助基金の支援を得て、海外海上保安関係教育機関での研修を行っている。今年度は韓国海洋大学校、カナダ沿岸警備隊士官学校に学生5人を派遣し、派遣先での授業・訓練への参加、施設見学、交流活動を実施している。
さらに、海上保安大学校では、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイの留学生を受け入れており、学生と留学生の交流の機会を通じ、国際感覚の涵養が図られ、国際対応力が向上するものと考えている。

おわりに

海上保安庁職員にとって国際対応力は必須のものであるが、一朝一夕に得られるものではない。このため、幹部職員を養成する海上保安大学校の学生については、その教育期間を通して、先述のような様々な国際交流等のプログラムを通じた実体験を行う中で、確実に修得していくことが必要である。(了)

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