Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第244号(2010.10.05発行)

第244号(2010.10.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆記録破りの酷暑が去り、ようやく秋らしくなってきた。酷暑をもたらした一因である熱帯太平洋のラニーニャ現象はさらに発達を続けている。今回のものはかなり強く、地球シミュレータの予測によれば一年以上にわたって続くようだ。この気候変動現象は西太平洋に暖水を蓄積するので、その上空は低気圧気味になる。このためシベリア高気圧との気圧差が大きくなり、冬の季節風が強まることが予想される。加えて、日本近海の海水はこれまでになく高温になっていることから、この冬、日本海側は大雪に注意したい。
◆ところで、アカデミーの世界ではノーベル賞の発表日が近づいてきた。わが国の理系分野、特に物理学、化学、生命科学などの分野の評価は高く、論文引用度で世界の最高水準を行く学者も少なくない。その割にノーベル賞受賞者は少ない。大学の国際ランキングでも東京大学でようやく二十番程度である。これはなぜだろう。文系分野の特殊性もあるが、国際化の遅れが致命的なのである。教員や学生に外国人が少ないことが、大学ランキングでは大きなマイナス要因になっているようだ。これは社会の国際化とともに克服してゆかねばならない。学問の世界では素晴らしい仕事を発表するだけでなく、それを理解する国際人脈との緊密な交流が重要である。極東の遠隔地に活動基盤を置くことの不利さを差し引いても、こうした面は全体的に弱いようだ。この弱点の最大の要因は外国語能力の不十分さにある。
◆山地哲也氏は海上保安業務における国際対応力とその早期教育の重要性を説く。波高い現場において実務として外国語に熟達する必要があることは直ちに理解できる。氏のオピニオンを一般化させていただくならば、「相手の意見に耳を傾け、情報を収集し、分析し、国際舞台で自らの意見を主張してゆく能力」はすべての国際分野で、今、最も必要とされているのではないだろうか。当事者間で理解し合おうと努めるだけでなく、常に世界の仲間を意識し、自らの立場を理解する人たちを増やしてゆくことを忘れてはならない。このような国際性を涵養するには、基礎となる外国語能力を磨くことが不可欠である。
◆1860年、新見豊前守正興を正使とする徳川幕府の遣米使節団はワシントンを訪問し、言語の違いに苦しみながらも、日米修好通商条約の批准書交換を立派に行った。今年は150年の節目の年にあたる。函館はこうした開国時代を経て国際交易の一大中心地として発展していったが、産業形態や交通手段の変化とともに徐々に衰退し、現在に至っている。この傾向に歯止めをかけるべく、産官学が一体となって進めている「海をテーマとしたまちおこし」の活動について伏谷伸宏氏が紹介する。ここにおいても国際化をどのように引き出すかがポイントになるであろう。
◆漂流、漂着ゴミの問題は本ニューズレターでもしばしば取り上げてきた。しかし海底ゴミの増大が沿岸漁業に深刻な問題を引き起こしていることはあまり着目されなかった。海底ゴミの回収、処理には、船舶を保有する漁業者、地方公共団体、国の協同が不可欠である。発生そのものの抑制には、河川流域を含む市民社会の啓発が必要になる。磯部 作氏はこうした体制の確立と意識改革を加速する法整備の必要性を訴える。(山形)

第244号(2010.10.05発行)のその他の記事

Page Top