Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第242号(2010.09.05発行)

第242号(2010.09.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆この夏も世界各地から異常気象のニュースが引きも切らない。わが国では集中豪雨に見舞われた後、連続する猛暑で熱中症患者が記録的な数に及んだ。ロシアでも停滞する高気圧による酷暑害で小麦の生産が大きな打撃を受けた。パキスタン、インド北部や中国の甘粛省では豪雨による洪水や土石流により大きな被害を出している。
◆このように異常気象が猛威をふるうのは地球温暖化に起因する気候変動のためである。温暖化気体の放出を抑制するには、風力、潮力、潮流、太陽光、太陽熱、バイオ燃料などの再生可能なエネルギーの利用を促進する必要があるが、一方で、2008 年の洞爺湖サミットで確認されたように、二酸化炭素の回収と貯留の技術を実用化することも重要である。海洋中あるいは海底下の地層に貯留する場合には、廃棄物の海洋投棄を禁止するロンドン条約との関係が問題になるが、この条約は2006 年に改定され、二酸化炭素を海底下の地層に貯留する場合は海洋投棄とはみなさないことになった。今号では佐藤 徹氏がこうした動きの国際的背景と海洋中に貯留する技術の国際展開についてオピニオンを展開している。
◆地球システムにおいて、海洋は二酸化炭素の巨大な貯蔵庫である。水深2,400メートルよりも深いところでは二酸化炭素は液化する。実際、(独)海洋研究開発機構は有人潜水調査船「しんかい6500」を用い2006 年に沖縄の与那国島沖の熱水鉱床付近で液状化した二酸化炭素のプールを発見した。海洋貯留実験は海洋生態系への影響を評価する科学プログラムと並行して推進されるべきであり、世界をリードするわが国の海洋中深層調査技術を広域展開するならば総合的に国際イニシャチブをとることができるであろう。
◆海洋投棄は意図せずに起こしてしまう場合もある。メキシコ湾における石油メジャーの海底油田事故は深刻な海洋環境破壊を起こしてしまった。この大事故が海洋資源開発はリスクマネジメントとともに推進されなければならないことを世界に知らしめることになったのは不幸中の幸いであろう。井口俊明氏は、海洋のリスクマネジメントの視点から、海難船舶と沿岸国の役割について実例を引いて明快に解説している。わが国周辺には古来「灘」の名称に見られるように、海難事故を起こしやすい海域が多い。転ばぬ先の杖として、海難船舶に適切に対処するための法整備が急がれる。
◆海洋基本法はその精神の実現にむけて地方公共団体がそれぞれのユニークさを生かして貢献することの重要性を謳っている。高橋浩進氏はこれを遂行すべく、岩手県における海洋ビジネスの創生と育成に向けた取り組みを紹介している。道田 豊氏が本誌232号で解説した「いわて海洋研究コンソーシアム」は研究開発や環境保全面でその一翼を担うものである。総合的な沿岸域管理のよき見本となることを期待したい。
◆はやくも立秋である。暦の上で秋が来ても、猛暑が続く。ビルの谷間を吹く熱風ではとても「風の音にぞおどろかれぬる」とはいかない。それでも上空には雲が流れ、確実に季節の移ろいがみられるようだ。(山形)

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