Ocean Newsletter
第242号(2010.09.05発行)
- 東京大学大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻 教授◆佐藤徹
- 東京海上日動火災保険株式会社コマーシャル損害部主任調査役◆井口俊明
- 岩手県沿岸広域振興局経営企画部特命課長(海洋担当)◆髙橋浩進(こうしん)
- ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男
「海の産業創造いわて」の実現を目指して
[KEYWORDS] いわて県民計画/いわて三陸海洋産業振興指針/地方公共団体岩手県沿岸広域振興局経営企画部特命課長(海洋担当)◆髙橋浩進(こうしん)
岩手県では、「いわて県民計画」に掲げる「海の産業創造いわて構想」の実現を図るため、「海洋基本法」に定める地方公共団体の責務などを踏まえ、「いわて三陸海洋産業振興指針」を策定している。
本指針に基づき、いわて三陸の「海」の多様な資源を活用した新規ビジネスの創出や、海洋研究の国際的拠点の形成などに向けた施策を講ずるため、本年度から具体的な取り組みに着手した。
はじめに
岩手県の沿岸地域は、わが国屈指の海岸美、沖合には黒潮と親潮が交錯する世界有数の漁場や未知の海底・海中資源の可能性、さらには、海洋関連の研究機関が集積するなど、三陸の豊かな海の地域資源に恵まれ、独自の価値にあふれています。
県では、こうした海の多様な資源を最大限に活用しながら、「いわて三陸」ならではの海の産業の創造を目指して、平成21年12月、「いわて三陸海洋産業振興指針」を策定し、具体的な取り組みに着手したところです。
指針策定の背景と趣旨
本県では、沿岸地域を中心に、水産、港湾・物流、観光などの海洋産業が形成されていますが、近年、漁業生産量の減少や魚価の低迷、漁業者の減少・高齢化が進んでいます。港湾の取扱貨物量については30年前をピークに大幅に減少し、さらに、観光客入込数はここ数年横ばいで、県全体としては7割が内陸に集中している状況にあります。
また、沿岸地域は、内陸と比較し、人口の減少や高齢化が著しく、地域経済社会の縮小が懸念される状況にあることから、県では、これら地域の振興を重点課題の一つとして位置付け、副知事を本部長とする県北・沿岸振興本部を設置し、関連施策を推進しています。
一方、国では、海洋立国の実現を目指し、平成19年7月、海洋基本法を施行していますが、その中で、地方公共団体の責務として、「区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する」ことが明記されているところです。
県としては、こうした地域の実情や国の動向などを踏まえ、沿岸地域を中心とした海洋産業の包括的な振興方針を示す必要があるとの認識に立ち、「いわて三陸海洋産業振興指針」を策定することとしたものです。なお、本指針は、「いわて県民計画」(平成21年12月策定)に掲げる「海の産業創造いわて構想」の実現に向けた具体的な施策方針として位置付けられています。
海洋産業の目指す姿と施策推進の基本的考え方

■図1: 三陸の海の資源を活用した産業振興のイメージ
本指針では、海洋産業を振興することにより、概ね10年後に実現したい将来的イメージ(目指す姿)を次のとおり示しています。
- いわて三陸の海の多様な資源から、新たな価値が次々に創出されている
- 新産業創出の取り組みや海洋研究の国際的拠点の形成が進展している
- 沿岸地域を中心に海洋産業の競争力が強化されている
施策推進に当たっては、本県の海洋産業を構成する産業群全体を、価値を生み出す一つのシステムとして捉え、持続的な発展力、価値創造力、競争力などを戦略的に高めていくことを重視しています。
その上で、三陸の潜在可能性を生かす内発性の取り組みを拡大し、地域の魅力を高めながら、外部の需要(観光客等)や経営資源(人材、資金等)を呼び込み、地域市場の拡大や産業の集積を図る一連の取り組みのイメージを関係者間で共有して進めることとしています(図1)。
また、海の多様な資源を円滑に利用できるような事業環境の整備、海洋研究などの知識・技術の集積による産業シーズ等の戦略的な発掘・育成、産業分野を横断して活躍できる人材の確保・育成、さらに、海洋産業の存立基盤である海洋環境の保全と調和などに留意し、総合的に取り組むこととしています。
施策展開の方向(重点施策)

■図2
本県海洋産業の目指す姿の実現を図るため、海洋産業が広範な産業分野に関連していることなどを踏まえ、共通基盤的、分野横断的な施策を重点施策として位置付け、取り組むこととしています。主な施策は次のとおりです。
1)新規ビジネス創出に向けた仕組みづくり
海洋産業関連の多様なネットワーク活動を活性化しながら、三陸の海の資源を活用した起業・創業活動等の加速化を図るとともに、海洋空間の多面的機能を活用した新規ビジネス創出の環境づくり、産学官の連携による人材育成を強化する。
2)三陸の「海」の多様な資源の利用拡大
水産物を中心とした「いわて三陸ブランド」の確立や水産資源の機能性等に着目した商品開発、 陸中海岸国立公園や漁撈文化等を活用した観光商品の開発、港湾や漁港等を活用した地域活性化の取り組みなどを促進する。
3)新産業創出等に向けた海洋研究・資源開発の促進
海洋研究機関の集積等を生かした海洋研究の拠点形成、再生可能な海洋エネルギー等の開発に向けた調査・研究などを促進する(図2)。
4)環境と調和した持続可能な産業基盤の形成
沿岸域(漁場、水系など)の環境保全活動、沿岸域の地層・地形等の保全と活用に向けた取り組み、生物多様性を重視した産業基盤の形成を促進する。
おわりに
本指針の策定に当たっては、指針策定委員をはじめ多くの方々のご提言、ご協力のもとに取りまとめたものであり、関係各位に対しまして、改めて感謝申し上げる次第です。
県では、本指針に掲げる施策を推進するため、県北・沿岸振興本部を中心に全庁的に取り組むとともに、本年度新設した広域振興局に海洋産業振興の専担部署を設置し、具体的な取り組みを開始したところです。関係の皆様方には、今後ともご指導、ご支援をよろしくお願いします。(了)
第242号(2010.09.05発行)のその他の記事
- CO2海洋隔離再考論 東京大学大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻 教授◆佐藤徹
- 海難船舶への沿岸国の対応 東京海上日動火災保険株式会社コマーシャル損害部主任調査役◆井口俊明
- 「海の産業創造いわて」の実現を目指して 岩手県沿岸広域振興局経営企画部特命課長(海洋担当)◆髙橋浩進(こうしん)
- 編集後記 ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男