Ocean Newsletter
第239号(2010.07.20発行)
- 民主党衆議院議員、海洋基本法フォローアップ研究会 代表世話人◆髙木義明
- (社)日本経済団体連合会海洋開発推進委員長、三井造船株式会社会長◆元山登雄
- 東京大学大学院工学系研究科教授◆荒川忠一
- インフォメーション
『「新たな海洋立国の実現」に関する提言』提出 - ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌
海洋への国民的関心と理解を深めよう
[KEYWORDS] 海の日/海洋法制/海事教育の推進民主党衆議院議員、海洋基本法フォローアップ研究会 代表世話人◆髙木義明
海の魅力や海の職場の重要性について、学校等も含めた海事教育の推進など、官民あげての取り組みが求められる。海洋に関わる施策の充実はもとより、海洋に関する国民的関心と理解、人材育成と競争力が重要である。
15回目を迎える国民の祝日「海の日」
平成8年(1996年)に船出した国民の祝日「海の日」は、この7月で15回目を迎える。
祝日法改正案(海の日の祝日化)に関する国会の提案説明(平成6年12月6日衆議院内閣委員会、平成7年2月28日参議院文教委員会)では、「海の恩恵に感謝し、海を大切にする心を育てることを目的に、既に海の記念日として長年にわたり国民に親しまれております7月20日を海の日として国民の祝日に加えようとするもの」とされ、その後ハッピーマンデーの三連休として7月の第3月曜日となった。
海は地球上の70%を占めており、わが国は四面を海に囲まれ、世界でも最も海の恩恵を受ける国の一つである。私たちの先賢は古くから、海の恵み、水産物、資源など生活の多くを依存するとともに、海を交通の手段に活用して文化等の交流を図り、海と親しみながら今日の日本を築き上げてきた。一方、海洋国家・日本を取り巻く課題も山積している。(1)海洋汚染、(2)海洋・海難事故の多発、(3)海洋権益、(4)不法操業、(5)日本人船員の減少、など、国をあげてこれら諸問題への対応が迫られている。海の環境を保全すること、海洋資源の開発は、人類のさらなる発展の礎ともなる重要なものである。
総合的・一体的な施策に向けた「海洋基本法」の意義

「海の日」の祝日化は、海への国民的関心の醸成へ大きな役割を担うこととなり、国連海洋法条約の批准もあって、「海洋基本法」制定につながったと言っても過言ではない。
「海洋基本法」は、わが国の33番目の基本法として平成19年(2007年)4月27日に公布され、同年の7月20日(海の日)に施行された。同法は、海洋に関する様々な課題に国として総合的かつ一体的に取り組むための法的枠組みである。そして、内閣総理大臣を本部長、内閣官房長官と海洋政策担当大臣を副本部長に、全閣僚を本部員とする総合海洋政策本部を設置し、海洋に関する施策の企画立案・総合調整を行うとともに、海洋基本計画を策定することとしている。同法の制定前は、海に関わる行政は多くの省庁が関係し、それぞれが独自の施策を進めてきた。つまり海底資源は経済産業省、水産は農林水産省、海運は国土交通省、海洋科学は文部科学省、環境は環境省、さらには外務省、防衛省、法務省、海上保安庁などが、縦割りですすめてきた。
同法の制定により、これまで関係省庁が行ってきた様々な海洋に関する施策について、総合海洋政策本部が司令塔として、海洋政策を総合的・統合的に管理する仕組みができたのである。
特に、海洋資源の開発利用、海洋環境の保全、排他的経済水域・大陸棚の開発・利用・保全・管理、海洋科学技術に関する研究開発、海洋産業の振興、沿岸域の総合的管理、離島の保全、海洋に関する教育の推進等には、海洋国として国を挙げた取り組みが必要である。
海洋基本法の制定をうけて、平成20年(2008年)3月18日に「海洋基本計画」が閣議決定され、6項目の基本理念と12項目の海洋の基本的施策が提示された(表1参照)。
しかし、まだまだ残された課題は多い。
海洋基本法の国会審議の中で、衆議院国土交通委員会は平成19年(2007年4月3日)に「新たな海洋立国の推進に関する件」を決議し、「国連海洋法条約に関する国内法の整備が十分でなく、早急な整備が必要なこと」「領土の保全に遺漏なきを期すとともに、海洋の新たな秩序を構築すること」などの5項目を提示している。
このほかにも、EEZ(排他的経済水域)や大陸棚におけるわが国の主体的権利の確保、海底資源・エネルギーの確保、ガス田などを含む海洋開発の推進体制、などは重要であり緊急な対応が求められている。これらは、海洋国家としてのわが国の国益と密接に絡むことである。
学校教育も含めた海事教育の振興に、国が基盤づくりを
海洋政策を展開する上で、欠かすことができないのは、マンパワーの存在である。とりわけ内外を問わず海上輸送を担う人材の育成と競争力は当面の課題であろう。海洋基本法が制定された翌年の平成20年(2008年)に「海上運送法及び船員法の一部を改正する法律案」が成立した。同法の内容は、(1)必要な日本船舶の確保、(2)日本人船員の確保・育成、(3)トン数標準税制の導入、(4)船員の労働環境の改善、などであり、日本人船員問題に深くかかわっている。国土交通省は、同年7月17日に「日本船舶及び船員の確保に関する基本方針」を告示した。
安定的な海上輸送の確保を図るために必要な日本船舶の確保、日本人船員の育成及び確保は不可欠であり、とりわけ重要なことは、海事に従事する持続的な担い手が存在することである。すなわち担い手の減少という状況を、官民挙げて解決を図る第一歩は、子どもの頃から海を身近に感じ、海に親しむことである。学校教育も含めた海事教育については、国がその基盤づくりと振興に努めなくてはならない。同法の附帯決議でも、その視点から「海洋基本法に示された海洋に関する国民の理解の増進と人材育成を図るため、国家的取組みとして総合海洋政策本部のリーダーシップの下、海事広報活動の抜本的見直しを図り、青少年の海に関わる仕事への憧れを喚起するべく、海の魅力や海の職場の重要性について学校教育と連携した海事教育の推進に積極的に努めること。」を要請している。
もちろん海洋基本法にも、「海洋に関する国民の理解の増進等」(第28条)が提起され、学校教育や社会教育はもとより、海洋に関する政策課題に的確に対応する人材の育成と、大学等における学際的な教育および研究の推進へ、国の必要な措置を講ずることを求めている。このように海洋国家日本を取り巻く課題は、依然として多い。制定された海洋基本法のフォローアップの作業はもとより、その実効性を高める取り組みが必要とされる。私は、昨年11月に「海洋基本法フォローアップ研究会」代表世話人に就任したが、そのことを強く感じる。あらためて海と向かい合い、海洋を見つめ直したいものである。(了)
第239号(2010.07.20発行)のその他の記事
- 海洋への国民的関心と理解を深めよう 民主党衆議院議員、海洋基本法フォローアップ研究会 代表世話人◆髙木義明
- 海洋立国への成長基盤の構築に向けて (社)日本経済団体連合会海洋開発推進委員長、三井造船株式会社会長◆元山登雄
- 風力エネルギーは「海」を目指す 東京大学大学院工学系研究科教授◆荒川忠一
- 編集後記 ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌
- インフォメーション 『「新たな海洋立国の実現」に関する提言』提出