Ocean Newsletter
第238号(2010.07.05発行)
- 横浜国立大学環境情報研究院教授◆松田裕之
- 三重県志摩市産業振興部水産課 水産資源係長◆浦中秀人
- NPO法人鞆まちづくり工房 代表理事◆松居秀子/東京大学大学院工学系研究科博士課程◆P. Vichienpradit
- 東京大学大学院理学系研究科 研究科長・教授◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形 俊男◆この6月中旬にパリのユネスコ本部で政府間海洋学委員会(Intergovernmental Oceanographic Commission,加盟国数138カ国)の第43回執行理事会(理事国40カ国)が開催された。今年は創設50周年にあたり(本ニューズレター195号Jeoffrey Holland氏の解説参照)、加盟各国で様々な記念事業が開催される。わが国でも50周年記念のフラッグを掲げた調査航海や秋から冬にかけて複数の国際シンポジウムが計画されている。この政府間海洋学委員会は、国際協調の下で科学調査、データ・情報交換、人材育成などの企画調整を行う、国連内で唯一の組織である。現在は、1)津波などの海洋災害を防ぎ、減じること、2)気候変化・変動の影響を和らげ、また適応策に貢献すること、3)海洋生態系の健康を守ること、4)沿岸域を含む海洋環境と資源を持続的に管理する方策への貢献に重点を置いている。
◆海洋にも関係する機関として国連内には国際海事機関、世界気象機関、国連環境計画などがあり、これらともユネスコを超えて自在に交流する必要性から、政府間海洋学委員会はユネスコ内において機能的自律性を保持している。もともとは海洋の科学調査における国際連携の必要性から生まれた組織であるが、海洋ガバナンスに各国が関心を深めるようになって、今やその機能は多岐にわたり、各国の利害に関係する事案などで海洋法の解釈が重要になるような局面も増えて来た。そこでユネスコ内における立ち位置の議論や拠点をどこに置くかという議論が絶えず繰り返されている。政府間海洋学委員会は海洋科学に基づく国際外交の場であり、世界海洋循環実験(WOCE)など国際共同観測計画の主導、海洋データセンターや津波警報システムの構築、発展途上国における能力開発などで輝ける歴史を持つ。その創設に大きな貢献をしたわが国としても50年の節目にあたり、省庁の枠を超えてその意義を議論して、あるべき姿を世界に発信してゆくことが必要である。
◆ところで、この10月には名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議が開催される。これに関して松田裕之氏が海との関係について解説している。生物多様性における海洋問題は漁業とも関係するために単純ではない。しかし国際協調による適切な科学調査とそれに基づく総合的な海洋ガバナンスを実現する仕組みの導入を急ぐ必要があるだろう。政府間海洋学委員会はこうした問題にもっとコミットすべきなのではないだろうか。浦中秀人氏は資源を持続的に利用しつつ生態系を守る、いわゆる「里海」の概念を英虞湾に実現する活動について紹介している。さまざまなセクターを超えて関係者が共同し、総合的に沿岸域を管理する仕組みがここでも必要とされていることがわかる。松居秀子氏らは瀬戸内の海との交流史を色濃く残す鞆の観光まちづくりから、歴史・自然・文化を生かしつつ、行政区分を越えて瀬戸内海全域が連携し、地域振興を図るネットワークを構想する。行政レベルの広域ネットワークと連携し、既存の枠組みを超えて協働する自発的な試みに大いに期待したい。(山形)
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鞆の歴史から瀬戸内海の観光まちづくりを展望する
NPO法人鞆まちづくり工房 代表理事◆松居秀子/
東京大学大学院工学系研究科博士課程◆P. Vichienpradit - 編集後記 ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男