Ocean Newsletter
第236号(2010.06.05発行)
- 前国土交通省都市・地域整備局地方振興課半島振興室課長補佐◆横山博一
- 東京大学生産技術研究所教授◆木下 健
- エコライフコンサルタント◆中瀬勝義
- ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形 俊男
豊かで潤いのある国民生活を支える半島地域のなりわい
[KEYWORDS] 半島地域/半島振興法/地域振興前国土交通省都市・地域整備局地方振興課半島振興室課長補佐◆横山博一
半島地域における住民の日々の暮らしや生業は、豊かで潤いのある国民生活を支え、観光立国を実現するために不可欠な観光・交流資源となっている。
しかし、一方では大都市圏などへの人口流出が続いている状況にある。
現在、多くの半島地域で内発的な取り組みが立ち上がってきており、それらの持続的発展を促進する施策や、半島地域とその有する価値を広く国民に知ってもらう取り組みが必要となってきている。
皆さんは、紀伊半島や渡島半島といった半島の名前を耳にされたことがあるかと思います。実際に住んでおられたり、あるいは旅されたことがあるかもしれません。ここでは、半島地域の現状と課題などについて、海との関わりに触れつつ簡単に御紹介したいと思います。
半島地域と半島振興法

半島地域とは何かというのは、必ずしも一義的に明らかではありません。けれども、三方を海に囲まれている地域であることには概ね異論がないでしょう。わが国は、南北に長い列島を国土としておりますので、そのなかでも特に海に突き出している地域を「半島」と呼称しているようです。後述する半島振興法においては、「三方を海に囲まれ、平地に恵まれず、水資源が乏しい」(第1条)などというように半島地域の定義がなされております。
わが国では、戦後経済の復興と成長の過程で、いわゆる太平洋ベルト地帯に集中的な投資が行われて産業の集積が進み、そこに就業機会を求めて人口が移動し、都市が連坦化して国土の幹線軸が形成されていきました。一方、かつて海運により多くの港が生活物資の集散地などとして栄えた半島地域は、その地理的特性により国土の幹線軸から離れているため、産業の集積が進まず、他の地域との生活水準の格差も拡大していきました。
このような半島地域について、特別の措置を講ずることにより振興を図るべきであるという声が次第に高まり、これを受けて、昭和60年には半島振興法が議員立法として成立しました。同法に基づき「一体として総合的な半島振興に関する措置を講ずることが適当であると認められる地域」(第2条)として指定された23の半島振興対策実施地域においては、これまで、道路等の公共的施設の整備や企業の立地が促進され、住民生活の向上に一定の成果が挙げられてきましたが、一方で大都市圏などへの人口流出は続いており、学校の統廃合、交通手段の減少などによってさらに人口が流出し、高齢化が進展している状況です。
半島地域の有する価値とは

「半島地域」は半島振興対策実施地域を指す。また、「半島地域」の数値は、全国の数値の根拠となった統計調査等をベースに国土交通省半島振興室が集計したもの。
「人口」は「国勢調査」による。
「可住地面積」は国土交通省「全国都道府県市町村別面積調」および農林水産省「2005年農林業センサス」による。なお、半島地域には佐世保市浅子地区および鹿児島市東桜島地区を含まない。以下同じ。
「指定漁港数」は水産庁調べ(平成22年1月1日現在)による。
「漁獲金額」は「2003年漁業センサス」による。
「本土の海岸線」は環境庁「第4回自然環境保全基礎調査『海岸調査』」による。
翻って考えれば、住民の方々が半島地域から大都市圏などに移り住むのは、そうすることがより生活の向上などに資すると考えているからでしょう。ですから、半島地域に人が住み続け、集落が承継されることに特段の意味がないのであれば、そもそも人口減少や集落の衰退などを危惧する必要はなく、地域に残った方々の生活の安定などが確保されればよいことになります。けれども、様々な観点から検証すると、住民の方々の日々の暮らしや生業が果たしている多くの役割に気づかされます。
たとえば、半島地域(以下では半島振興対策実施地域の数値をお示しします)においては、海洋に突き出した地勢から、指定漁港の30%強が存在し、全国の漁獲金額の約25%を産出するなど、半島地域はわが国の水産基地であり、水産物の安定供給のために重要な機能を担っているものといえるでしょう。
また、こうした地勢により、半島地域は本土の海岸線の約半分を占めているため、沿岸域に多様な生物が生息し、また、独特の優れた景観を多数有しておりますが、その多くは、住民の方々の営みによって保全されております。たとえば、鳴砂の浜として名高く、和歌にも多く詠まれた琴引浜(丹後地域)は、現在も国民の憩いの地として知られておりますが、この浜は、住民の方々による地道な活動※1により良好な状態で維持されてきたものと評価されております。
さらに、半島地域では、全国的に見ても大変多くの貴重な民俗文化が今なお住民の方々に受け継がれております。なかでも、集落などにおいて共同で行われる年中行事や祭礼が多く残されており、住民の方々の日常がそのまま国民的財産となっていることがわかります。
半島地域の有する価値を述べつくすことはできませんが、ここでお伝えしたことだけでも、可住地面積に乏しく人口減少の進む半島地域における住民の方々の日々の暮らしや生業が実は豊かで潤いのある国民生活を支えていることを御理解いただけるのではないでしょうか。
加えて、こうした水産業・漁村や美しい景観、特徴的な民俗文化はいずれもわが国の貴重な観光・交流資源ですから、観光立国を実現するためには、半島地域と、そこでの住民の方々の営みが不可欠なものとなります。このことは、国土交通大臣が認定した45の観光圏のうち3分の1に当たる15の観光圏が半島地域を中心とするものである(平成22年4月28日現在)※2ことからも明らかでしょう。
半島地域の自立的発展に向けて
半島地域が有するこうした価値は、住民の方々が自らそれらに気づき、地域の内発的な取り組みが展開されることによって初めて守られるものといえます。このため、平成17年には、「半島地域の自立的発展」の目的規定への追加や「地域間交流の促進」等に関する配慮規定の追加などを内容とする半島振興法の一部改正※3が全会一致で可決成立しました。
現在、半島地域の価値を発現させる内発的な取り組みが多くの地域で立ち上がってきております。政府では、新しい半島振興法に基づき半島地域の自立的発展を実現するため、こうした内発的な取り組みの持続的な発展を促進するにはどのような施策が必要か、国土交通省を中心に検討を重ねているところです。また、半島地域とその有する価値を広く国民の皆様に知っていただけるよう努力してまいります。皆さんもぜひこの機会に半島地域について考えてみてください。(了)
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