Ocean Newsletter
第236号(2010.06.05発行)
- 前国土交通省都市・地域整備局地方振興課半島振興室課長補佐◆横山博一
- 東京大学生産技術研究所教授◆木下 健
- エコライフコンサルタント◆中瀬勝義
- ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形 俊男
編集後記
ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形 俊男◆わが国初の金星探査機「あかつき」が5月21日に成功裏に打ち上げられた。金星の自転周期は243日で、地球に比べるとはるかにゆっくりと回転しているにもかかわらず、大気上層では秒速100メートルにも及ぶ風が吹き、約4日で一周してしまう。スーパーローテーションと呼ばれる現象である。どのようにしてこのように大きな角運動量が蓄積されるのかは未だに謎である。大気の96%は二酸化炭素からなり、その温室効果によって、地表面の温度は摂氏460度の灼熱地獄になっている。地球とほとんど同じ大きさ、質量をもつ金星は、いわば兄弟のような惑星だが、この惑星はその気象も気候もまったく違っている。年末頃には、この謎を解き明かすデータが次々に送られてくるだろう。宇宙からのクリスマスプレゼントが今から待ち遠しい。
◆地球の金星化を抑制するには化石燃料への依存を抑制し、炭素循環を正常化する必要があるが、一方で人類社会の持続的な展開には再生可能な新エネルギー源の確保が不可欠である。再生可能エネルギーとしては太陽光や太陽熱、地熱、バイオマス、水流、地上風等がよく知られているが、海上風、潮汐、潮流、海流等も重要である。海からの視点も大切なのである。しかし、わが国では海洋再生可能エネルギーが新エネルギーとして認定されていない。木下 健氏はこうした制度の不備のために海洋再生エネルギーの台帳や関連法の整備など、開発に向けた準備が遅れていることを指摘する。ちなみに英国では2020年までに電力消費における再生可能電力の比率を30%以上とすることを目指し、中国も昨年の時点で再生可能エネルギーの開発に346億ドルもの投資を行った。これは二位の米国の約二倍の投資額である。
◆加えて、今号では横山博一氏が半島のユニークな地形が培ってきた自然と文化の豊かさ、水産業や観光業に果たす重要な役割を解説している。全国の漁獲金額の四分の一が半島地域の漁港によるという統計データが示されているが、私たちも半島の意義を再認識したいものだ。半島の英語はpeninsulaで、その語源はラテン語のpene(準)と insula(島)からなっている。insulaの派生語には insulation(絶縁、孤立)もあるように、島は四方を水域に囲まれて陸から孤立している。半島は三方を水域に囲まれているが、陸続きである。それゆえにユニークなのである。一方で、湾は三方を陸域に囲まれ、別な意味でユニークである。中瀬勝義氏は東京湾に注ぎ込む小名木川の環境改善の具体例から、河川と湾をつなぐ水辺の観光の豊かな可能性を描く。首都圏には多くの河川と濠があるが、もしこれらも繋いで水の循環と水上交通を復活させるならば、自然の再生に貢献するだけでなく、新たな観光資源になるはずである。観光立国と環境立国を並行して進めることが相乗効果を生む良き例がここにある。 (山形)
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