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オーシャンニューズレター

第22号(2001.07.05発行)

第22号(2001.07.05 発行)

東アジア海域海洋環境管理計画(PEMSEA)について

PEMSEA Manager◆Chua Thia-Eng

国内総生産の多くを海洋に依存している東アジアでは、いま沿岸域における深刻な環境問題に直面している。環境の管理はひとつの国家の問題だけではなく、東アジア経済圏における問題としてとらえてゆかねばならず、そのためにPEMSEAは、地域全体で問題を解決するための共同ビジョンを構築するとともに、そのビジョンを達成するための戦略と環境実施計画を支援している。

東アジアの海洋環境管理と経済的発展の関係

地球環境ファシリティ(GEF=GlobalEnvironmentFacility)、国連開発計画(UNDP=United Nations DevelopmentProgram)、国際海事機関(IMO=InternationalMaritimeOrganization)の協力を得ながら、東アジアの11カ国は相互のパートナーシップにより、東アジア海域海洋環境管理計画(PEMSEA=RegionalProgram on Building Partnerships inEnvironmental Management for the Seas ofEast Asia)に取り組んでいる。

その11カ国とは、インドネシア、韓国、カンボジア、北朝鮮、シンガポール、タイ、中国、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシアであるが、これらの沿岸国は、食物供給、生活、医療、エネルギー、鉱物、輸送、レクリエーションの諸活動の多くを昔から海に依存している。これらの沿岸国は黄海、東シナ海、南シナ海、スールー・セレベス海、インドネシア海の5つの海域=海洋生態系に囲まれている。これらの生態系は世界のマングローブとサンゴ礁の3分の1、そして世界の漁業資源の4割を占めている。

東アジアの海域は、地域の経済に相当な役割を果たしている。この海域からは、モノとサービスの価値として毎年130兆米ドル、そして東南アジアのサンゴ礁からは1兆125億米ドルの収入を生み出していると推測されている。海運業は1970年に国内総生産の15%から1995年には50%にも昇り、輸出が毎年10%ずつの成長を遂げてきた(世界銀行、1998年)。世界の商船の半分以上がマラッカ海峡及びロンボク海峡を航行し、世界最大港湾のトップ20の中、9つは東アジア地域にあり、特にシンガポールと日本との間の航路には大規模な港湾が存在する。

ところでこの地域では、沿岸域及び海洋の環境が劇的な悪化状態に陥っていることはよく知られている。環境の負荷は人間の健康に影響を与え、資源の生産能力が減っているために経済成長が妨げられている。下水の1割も処理されていないという実例がよく報告され、胃腸炎や上気道感染症になった件数がすでに2億5千万件を越えていると報告されている。赤潮の発生が広まって漁業や水産養殖の収益が奪われている。フィリピンやタイではトロールや公害によってマングローブの半分以上と多くの海藻が完全に滅びている。環境回復のコストは十分に把握されていないが、世界銀行によると改善策は国内総生産の1%弱かかり、2020年にはこれが1~1.5%に昇ると予想されているわけである。

とりわけ国家的及び行政的な境界を越える環境問題と自然資源の利用に関しては状況が懸念される。この多重国境の諸問題はよく「誰の責任でもない」とされ、そこで環境悪化は共同で利用している資源の生態系だけではなく、各国の国境内にも及ぶ。

2000年11月に開催されたシンガポールサミットで、ASEANとアジア北部諸国は「東アジア経済圏」という新たな体制を生み出したが、そこでの経済発展は環境を保護する共同の取り組みと表裏一体である。環境保護は持続可能な社会的及び経済的な発展の不可欠な一部である。したがって、環境管理は新しい東アジア経済圏における地域プログラムの活動から切り離してはいけない。

PEMSEAの活動とその目的

ここ数年、いくつかの国際環境条約や協定が制定された。国連海洋法条約、国連環境開発会議の第17章、国連気候変動枠組み条約、生物多様性条約、さらには国連環境計画(UNEP)と国際海事機関(IMO)の特定の条約や議定は、特に沿岸域・海洋の保護と管理に関係するものである。しかし、東アジア地域ではこれらの条約などの批准はもとより、その有効な実施がそもそもできない国が多い。

そうしたなかで、PEMSEAは東アジア経済圏(ASEAN+3)の多国間かつ多セクター間の東アジア海域に対する共同ビジョンを構築するとともに、そのビジョンを達成するための戦略と環境実施計画を支援することを目的としている。最終的な目標は、世界行動計画(GlobalProgram ofAction)、気候変動枠組み条約、生物多様性条約のような国際環境保護手段の総合的な実行を取り入れる機能的な地域協力体制である。

PEMSEAは次の活動に重点を置く。

  1. 沿岸域の総合的計画と管理に関する地方の能力を強化することにより、沿岸域・海洋資源を有効に管理できる自治能力を築くこと。
  2. 共同のビジョン、戦略、実施計画を通して小海域の管理に関する多国間かつ多団体間の協力を促進すること。
  3. 現地の実用的な取り組みを強化するために管理関係の方法、技術、ワーキングモデル、基準を開発すること。
  4. 意思決定者に政策サポートや科学的なアドバイスを提供すること。
  5. 特定の国際環境保護手段とそれらの総合的な実行を促進する相互作用やつながりを認識し、実例によってそれをはっきり示すこと。
  6. 海洋環境に関する国際条約や実施計画を実行するために、環境に対する投資の機会、持続可能な資金調達手段、機関的な取り決めを構築すること。

この長期的開発の目標と活動を実施することに伴って、PEMSEAは、特定の共同政策に関する問題を論議する東アジア海域の海洋シンクタンクを設立することを考えている。また、PEMSEAは、地域に関する正確な科学アドバイスを提供する、又は地域協力プログラムの顧問を務める学際的な専門家グループ(MEG=MultidisciplinaryExpertGroup)を構築する予定である。そして、地域専門家を育成するために、地域作業部会の設置も検討中である。(了)

沿岸域管理プロジェクト地域
■APEC各国において総合的沿岸域管理プロジェクトが実施されている地域

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