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オーシャンニューズレター

第229号(2010.02.20発行)

第229号(2010.02.20 発行)

韓国・海洋国家への変貌

[KEYWORDS] 韓国の海洋戦略/海洋インフラ等整備/海洋勢力の増強
海洋・東アジア研究会◆冨賀見栄一

過去の歴史を踏まえ、地政学的に見れば、韓国は半島国家であると見られがちであるが、ソウルオリンピック以降、韓国は国家戦略を海洋戦略に切り替え、今や半島国家から海洋国家に変貌している。
造船業振興、自国船籍船確保、海洋インフラ整備、海事教育、海洋勢力の充実強化等を海洋戦略に基づき、国家の意思として明確に示し、着実に実現している。
海洋国家日本は、今後どう国家戦略を立て直すのか?

国家戦略を海洋に舵を切った韓国

韓国が海洋国家であると言うと、何か違和感を持ち、韓国は半島国家であり、決して海洋国家ではないとイメージしている人も多数いるのではないかと思う。地政学的に見れば、朝鮮半島はアジア大陸の先端に位置しており、過去、日本、中国、ロシアから半島国家なるが故に大陸勢力と海洋勢力が相互に競い合い、その脅威にさらされてきた。そして現在、その半島自体も38度線の軍事境界線で南北に分断されており、朝鮮半島の統一は見えていないので、韓国にとっては大陸に通じる北側に北朝鮮が存在する限り、海外への出入口は海(空)しかない島国国家と同様である。
朝鮮半島分離後は、時間の経過とともに「大陸国家との関係の深い半島国家」から「三方海に囲まれた海洋国家」に変貌してきた。朴大統領時代の"漢江の奇跡"に象徴される経済成長戦略を掲げ、韓国経済は88年ソウルオリンピックを契機に資本主義経済は離陸して上昇を始め、現在では輸出入に大きく依存する体質になっている。この経済活動(2007年GNI:国民総所得額は韓国2万4840ドル/人、日本3万7790ドル/人)は世界屈指の自国商船隊による海運によって支えられており、貿易の重要拠点である釜山港北東アジアのハブ空港として発展し、造船業も日本を抜き世界一の建造量を誇り、IMO世界海事大学への留学・偏差値の高い海洋大学等の船員・海事教育も充実強化している。
ソウルオリンピック以後、韓国は国家戦略を海洋戦略に切り替え、国家行政組織の改革を進め(国土海洋省設置)、港湾・空港等のインフラ整備、海運産業の振興、さらには海軍力および海洋警察力の増強を強力に推し進めている。1978年供用開始した韓国初の釜山コンテナターミナルは、以後漸次整備され、現在では新港を含め年間約1,200万トンTEU以上の物流を処理する世界5位のコンテナ港湾であり、世界100カ国・500港湾と連結する国際物流ハブ港湾となっている。
さらには、2001年に開港した仁川国際空港は大韓航空およびアシアナ航空のハブ空港で、3,750m(2本)、4,000m(1本)の滑走路(計3本)が現在供用中であり最終的には4本の滑走路を有する計画となっている。現在、日本・中国・東南アジア・北米・ロシア・ヨーロッパ・中東各国約50の航空会社国際路線の航空機が就航しており、北東アジアの国際ハブ空港となっている。
最近、わが国でも政権交代後、前原国土交通大臣が「羽田空港に来年10月第4滑走路完成を契機に同空港の24時間国際ハブ空港化、スーパー中枢港湾である東京湾、伊勢湾、大阪湾の3大湾・5大港を1~2カ所に絞り込み、今までの国土交通行政を変える『選択と集中』が必要である」と指摘しているが、韓国はその『選択と集中』をソウルオリンピック後約20年前から海洋国家戦略に基づき、現在の状況を実現している。大統領制という中央集権国家と議院内閣制国家の違いはあるにしても、日本と比較して、その国家戦略の実現力の差は何処にあるのか?

韓国海洋勢力増強の背景

先にも述べたとおり、ここ20~30年間の経済発展により韓国は輸出入に大きく依存する経済体質になり、朝鮮半島が軍事境界線で分断されている以上、その貿易は海運に依らざるを得ないのが現状である。したがって、韓国内での経済活動を安定的に発展させ、国家運営するには海洋をいかに障害なく、有効活用するかが重要になる。こうした海洋機能を維持、発展させるためには、韓国海運を護る海軍力や海洋警察力を充実させ、国際的協力関係を含めた外洋活動能力を強化することが必要となる。

韓国海軍の動き

このような国家戦略に基づき、韓国海軍はアジア最大の揚陸艦2隻、7,600トン級イージス駆逐艦6隻、5,000トン級駆逐艦12隻、1,800トン級潜水艦18隻などを建造する計画であり、これら艦艇で編成される艦隊は外洋海軍を目指す韓国海軍の戦略機動戦隊であり、現在、韓国南部の都市・鎮海に一部外洋艦船が配備されている。さらには、2014年までに約20艦艇を収容できる海軍基地を済州島南部に建設するなど精力的に海軍力の増強を進めている。韓国海軍は創設以来の北朝鮮海軍に対する攻撃撃退を意図した沿岸哨戒型海軍を堅持するとともに、東シナ海、南シナ海、マラッカ・シンガポール海峡に至る公海での作戦能力を有する外洋海軍への変革が着々と進んでいる。
海賊対策として韓国政府が海軍艦艇をアデン湾に派遣したことは、まさに外洋海軍による韓国商船隊保護活動であるとともに、韓国政府の国際貢献活動のアピールであり、今後ともPKO活動等にも韓国海軍出動の可能性は大いに有りうるであろう。

韓国海洋警察庁の動き

アメリカコーストガード艦艇と併航する韓国海洋警察庁大型警備艦
アメリカコーストガード艦艇と併航する韓国海洋警察庁大型警備艦 (手前)。
韓国海洋警察庁ホームページ

韓国海洋警察庁は、朝鮮戦争休戦後、内務省治安局所属の海洋警察隊である警察庁の1部隊としてスタート(職員139名、小型整備船6隻体制)。ソウルオリンピック以後、1991年には内部組織を拡充して「海洋警察庁」に名称変更。1996年国家組織改編により新設された海洋水産省の外局として独立した行政組織に改組。2008年現在の李明博大統領による国家組織改革により改編された国土海洋省に所属して現在に至っている。現在職員10,977名、1,000トン以上の大型警備艦24隻を含む警備艦艇278隻、航空機17機を有する世界的にも有数な規模の海上警察機関に急成長している。さらには韓国在外公館(東京、上海、マレーシア)に海洋警察庁職員を、シンガポール所在の海賊情報共有センターに国土海洋省職員を派遣している。この急成長の背景は、やはり海洋戦略の一環であり、海洋国家としての意思を明確に打ち出し、諸施策を強力に推進している結果であろう。
海洋国家の基盤作りには、多額の予算・人材の育成、そのための時間が必要である。そのベースとして、国家の明確な意志がなければならない。わが国政府に、海洋政策を推進する確たる意志を強く望みたい。それにしても、この韓国政府の海洋戦略に基づく関連インフラ整備、海洋勢力の増強振り、そのスピードには驚き以上に脅威さえ感じる。(了)


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