Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第229号(2010.02.20発行)

第229号(2010.02.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆私事で恐縮だが、拙著『海洋民族学』(1995、東京大学出版会)の韓国語訳本を2005年にソウルの民俗苑出版から刊行した。その後、韓国南部の麗水(ヨス)や済州島で開催された海のシンポジウムで講演を行った。韓国ではほとんど調査をしたことがないが、韓国の水産業には大変興味を持っている。麗水でのシンポジウムがあった当時、竹島をめぐる領土問題が加熱していた。日本人1人だけが参加したシンポジウムでは、なんとも居心地の悪かったことを記憶している。それでも夜の懇親会では麗水の市長や財界人と話がはずみ、海洋開発によせる地元の人々の熱い思いを聞いた。
◆本誌で海洋・アジア研究会の冨賀見栄一さんが指摘されているとおり、韓国はこの間、着実に海洋国家としての道を歩んできた。海洋重視政策はソウルオリンピック以後のことであるとすれば、すでに20年以上が経過したことになる。今年の6月、かつての日銀総裁であり、優れた民俗学者でもあった渋沢敬三先生が韓国西海岸を歩いたのとおなじ経路をたどる小旅行に行くことにしているが、漁村の変貌はいかほどのものであろうか。韓国の海洋政策が地域にどのように反映しているのか興味は尽きない。
◆水産面でいうと、これまでに日韓両国でさまざまな協定が結ばれており、日韓漁業共同委員会で日本海における日韓双方の排他的経済水域における操業条件が両国で合意されている。ややこしいことに、日韓両国で合意に達していない海域がある。それが周知の竹島と、もうひとつは東シナ海にある蘇岩礁である。国連海洋法条約によれば、干潮時でも海面上に露出しない暗礁は島とは認められないが、韓国は自国の領土であると主張している。しかし、中国と日本はこの点を認めていない。いずれにせよ、韓国の動きをにらみながら対処する政策が今後とも継続的に重要となることは当然のことだ。
◆韓国からとおぼしき漂流物が佐渡にたくさん漂着する。佐渡市長である髙野宏一郎さんは、島国である日本は周囲が海であることを忘れるべきでないと主張する。アナゴ漁で使われる三角錐状の漁具は韓国漁船の使うプラスチック製の筒で、1隻で1回あたり1万個以上も大量に使用され、古い物は海上で投棄されるという。この筒の漂着ゴミによる一番の被害は佐渡ではなく、九州の対馬だろう。アナゴ筒は投棄された海底で別の魚を引っかけ死亡させる幽霊漁業の例としても知られる。韓国産アナゴの産地偽装も発覚している。適正な海の利用なくして、海洋国家として胸を張れるわけではない。わが国では今一度、海洋基本法をふまえて今後ともに海洋政策を考えるべきだろう。  (秋道)

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