Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第226号(2010.01.05発行)

第226号(2010.01.05 発行)

これからの日本の海洋政策について

[KEYWORDS] 海洋国家/海洋政策/海洋管理
国土交通大臣(海洋政策担当大臣兼務)◆前原誠司

長期的視野に立った海洋政策の推進は国政上の最重要課題といえる。
平成19年の海洋基本法の制定、内閣の総合海洋政策本部の設置、平成20年の海洋基本計画の策定等、超党派で一丸となって海洋政策を推し進めてきた。
日本の英知を結集し、広大なフロンティアである海洋の利用と開発を進めていくことが、産業や技術、学術の面で、日本の新たな原動力になるものと確信している。

はじめに

私は、この度、国土交通大臣を拝命するとともに、海洋政策担当大臣として、この国の海洋権益の確保という重大な使命を仰せつかりました。狭い潟に位置し、人口も少ないベネチアが、約千年もの長きにわたって海洋都市国家として国際的に繁栄を続けたことに思いをいたすとき、少子高齢化と人口減少をむかえる国土の狭い日本が繁栄を維持していく途は、海洋国家としての基盤の樹立にかかっているといっても過言ではありません。
政権交代後初めての臨時国会である第173回国会の所信表明演説において、鳩山総理は、「島国から開かれた海洋国家へ」と述べられました。いうまでもなく日本は世界有数の海洋国家です。四方を海に囲まれた島嶼国であるわが国は、国土面積(約38万km2)に比べて広大な排他的経済水域等(約447万km2)を有していますが、その面積は世界第6位と言われており、長期的視野に立った海洋政策の推進は国政上の最重要課題であります。
海洋政策については、その重要性の高まりに対応して、平成19年には議員立法による海洋基本法の制定、内閣の総合海洋政策本部の設置、平成20年には海洋基本計画の策定等、超党派で一丸となって推し進めてまいりました。
私自身も、一政治家として、上記の仕事に深く関わり、超党派の議員および有識者の方々からなる「海洋基本法フォローアップ研究会」の世話人・共同座長を昨年夏まで務めさせていただきました。今般の大臣の拝命に当たり共同座長からは身を引かせていただきましたが、引き続き世話人として、また、担当大臣として、今まで以上に積極的に海洋政策に取り組んでいきたいと考えています。

これからの海洋政策

第8回海洋基本法フォローアップ研究会にて(H21年10月29日、東京)
第8回海洋基本法フォローアップ研究会にて(H21年10月29日、東京)

さて、世界を取り巻く状況に目を向けてみますと、世界人口の増大と新興国の著しい経済発展により、資源・エネルギーの中期的な需給の逼迫、価格の上昇が予想されます。そのような中で、資源・エネルギーの安全保障という観点からも、海洋に眠っている資源が、日本の将来にとってますますその重要性を高めていくものと考えています。資源・エネルギーの観点から見れば、日本の周辺海域は、貴重な金属を含有する海底熱水鉱床や、将来のエネルギー資源として有望視され、CO2排出も少ないメタンハイドレート等が賦存する宝の海と言えます。資源小国といわれる日本が資源大国となっていくためにも、海洋資源関係の研究と開発を加速して約10年後の商業化を確実に実現するとともに、海洋権益を確保できる体制を整備していくことが極めて重要です。また、将来のエネルギー源となる可能性のある海洋の自然エネルギー(洋上風力、波力、潮汐による発電等)についても、地球温暖化対策の観点からも取り組みを進める必要があります。
また、国連海洋法条約では、所定の条件を満たせば200海里(約370km)の排他的経済水域の外側に海底天然資源の開発等の主権的権利を有する「大陸棚」を沿岸国が設定することが認められており、わが国は、平成20年11月に大陸棚の延長申請を国連の「大陸棚の限界に関する委員会」に提出しました。本件は、昨年の9月から、同委員会の小委員会において審査が始まり、今後結論が出るまでに2~3年位かかることが予想されています。国連の場において、わが国が条約上の権利を行使し、海洋権益を確保していくことは重要であり、政府一丸となって進めていきたいと考えています。
さらに、海洋管理の観点から、わが国に点在する離島を保全・管理する仕組みを構築したいと考えています。言うまでもなく、冒頭で述べたわが国の広大な排他的経済水域も今回国連に延長申請している大陸棚も、多くの離島の基線が根拠となって存在するものです。排他的経済水域や大陸棚の根拠となる離島の保全・管理は、日本の海洋権益を確保していくためにも不可欠なものであるとの考え方に立って、政府では、平成21年12月1日に、海洋基本計画に基づく「海洋の管理のための離島の保全・管理のあり方に関する基本方針」を策定したところです。特に、日本最南端の沖ノ鳥島や最東端の南鳥島は、わが国の国土面積より広い40万km2を超える排他的経済水域を各々有しており、これらの離島および周辺海域の有効活用のための具体的方策を展開していきたいと考えています。
世界的に緊急の課題である地球温暖化等の地球環境問題においても、地球の面積の7割を占める海洋は、地球の温度調節に決定的な役割を果たすだけでなく、膨大な二酸化炭素の吸収源となっており、その位置付けはますます重要になっていくものと考えています。このため、海洋と地球環境変動の関係をより的確に把握し、その対応策を充実するための調査、研究開発を強化していかなければなりません。
研究開発については、22年度末頃までに第4期科学技術基本計画を策定する作業が政府全体で始まっていますが、この中にも地球環境問題との関係をはじめ、海洋についての研究開発をしっかりと位置付けていきたいと考えています。また、各機関に分散している海洋関係の情報のクリアリングハウスを今年度末を目指して国土交通省(海上保安庁)に構築し、海洋の調査研究の効率化、活性化を図っていきます。
食料供給にとっても海洋は重要な位置を占めています。わが国の食料自給率はカロリーベースで40%位しかない中で、海洋生物資源である水産物は約60%と食料自給率の下支えに一定の貢献はしていますが、伝統的に海洋政策のうちでも早くから取り組みが進んできた漁業の分野でも、さらに取り組みを向上させるための努力が必要です。
また、明治以来世界に雄飛してきた日本の海事産業も、近年は、近隣のアジア諸国の成長の前に、その存在感が急速に薄くなってきています。世界に伍していける港湾サービスの提供も含め、海洋産業の成長戦略を本年夏までに樹立していきたいと考えています。
加えて、「津波(TSUNAMI)」が英語にもなっていることからわかるように、地震、津波、高潮など海洋由来の災害の研究と対策の分野において、わが国は、世界トップレベルの水準を誇っています。高速鉄道などと並んで世界に誇れるこうした技術を国際協力と世界への貢献に生かしていく努力が、今まで以上に求められています。

日本の将来に向けて

海の恩恵を受け、海に守られてきた日本ですが、少子高齢化と人口減少が進んでいく21世紀において、繁栄を維持するためにも、富源をさらに探ねて海洋を往く積極性が大切です。日本の英知を結集し、広大なフロンティアである海洋の利用と開発を進めていくことが、産業や技術、学術の面で、日本の新たな原動力になるものと確信しています。
日本の未来を切り開いていくために、海洋政策担当大臣としてはもちろん、政治家として、広大なフロンティアである海洋の開拓のための努力を続けて参る所存でありますので、皆様のご協力をいただければと存じます。(了)

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