◆平成二十二年の年が明けた。「かくて明けゆく空の気色、昨日にかはりたりとは見えねど、ひきかへめづらしき心地ぞする。大路のさま、松立てわたして、花やかにうれしげなるこそ、またあわれなれ」。これは徒然草第十九段の一節である。王朝文化から、武家や庶民の台頭著しい中世文化に移行する混乱期にあっても、兼好法師は冷静な目で時代の変化を観察し、新しい文化の創造に貢献している。ほぼ七百年前のことであった。私たちも今、国内外において社会、経済の歴史的な混乱期にあるが、良きものはしっかり伝承し、新しい時代を将来してゆきたいものだ。今年をそのような一歩を踏み出す年にしたい。◆今号には海洋基本法の制定や海洋基本計画の策定に尽力された前原誠司海洋政策担当大臣(国土交通大臣)に寄稿していただいた。海洋国家として海を知り、護り、持続的に活用してゆくことはわが国の存立にかかわることである。国際的に実績のある海洋科学・技術が先進的な統合的海洋管理政策と結びつくならば、地球環境保全、海運、水産、海洋開発、防災、安全保障などの広範囲の分野で国内のみならず、国際社会にも大いに貢献することになる。こうした海洋分野全般に造詣の深い大臣のリーダーシップに大いに期待したい。◆イブ・エノック氏には統合的沿岸域管理で先行してきた地中海沿岸海域における三十年間の経験とそこから得られた教訓について解説していただいた。沿岸域管理に向けた様々な活動を統合的に進め、これを支援するプロジェクトを発展的に継続させ、そして持続的な開発を行う最終段階に着実に向かうには、「成果の段階」という概念の導入とこれを評価する仕組みが重要であるという。人間活動と地球環境がもっとも激しく相互に作用しあうのは沿岸域においてである。統合的海洋管理はビジネスモデルとも整合的でなければとうてい持続性は持ち得ないであろう。◆小川 侃氏には哲学者の視点から海洋と国家の関係を考察していただいた。時空を越えてカントと坂本龍馬を繋ぐ、氏の思想、すなわち、海は〈対立を中和化する〉という思想は新春に際してわが国の過去、現在、未来に思いを馳せる良き指針になるのではないだろうか。 (山形)
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