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オーシャンニュースレター

第223号(2009.11.20発行)

第223号(2009.11.20 発行)

活動する漁村女性の応援団~うみ・ひと・くらしフォーラムの試み~

[KEYWORDS] 漁村女性/起業/ネットワーク
東海大学海洋学部海洋文明学科准教授◆関 いずみ

資源の無駄遣いはもったいない、地元の漁業をもっとわかってほしい、そして何より、地元の水産物のおいしさを伝えたい。
そんな思いから始まる漁村女性たちによる起業活動が活発化している。
地域や漁業の持続を前提に展開しているこれらの活動の応援団として立ち上げた『うみ・ひと・くらしフォーラム』を通して、漁村女性活動の今後を見つめていきたい。

水産界のかしまし娘、『うみ・ひと・くらしフォーラム』を立ち上げる

現在、多くの漁村は、主幹産業である漁業の担い手はもとより、地域自体の担い手の減少や高齢化、漁獲量の減少や魚価安、地域や漁協の合併による漁村の再編といった状況の中にあって、これから先の漁業や漁村の姿が見通しにくくなっている。その一方で、UターンやIターンといった形で戻ってきた若者たちが、地域に新しい風を送り始めている例や、これまで裏方的な存在であった女性たちが自らの手で起業したり、日常生活の中で継承されてきた相互扶助的な活動や環境活動を通して、地域の一員として雄弁に語り始めている例も数多く見られる。
この変革期にある漁村の暮らしを見つめ、少し大袈裟にいえば、これからの漁村の進むべき方向を見出していきたい、という思いから、2003年の夏、漁業漁村をテーマに研究している三人の女性研究者(水産大学校の三木奈都子と副島久実そして筆者)が『うみ・ひと・くらしフォーラム』を立ち上げた。
『うみ・ひと・くらしフォーラム』では、特に地域や生活の中心的な担い手である漁村女性の活動に焦点を当て、調査やシンポジウムの開催、ホームページ※やリーフレットでの情報発信などを通して、女性活動の支援を進めている。
継続的に実施している「魚食を考えるシンポジウム」は、主に地元水産物を活用した起業活動を行う女性グループのためのシンポジウムで、年に一度全国の女性たちが一堂に会する貴重な情報交換の場となっている。

地元水産物を活用した漁村女性の起業活動が活発化している。
地元水産物を活用した漁村女性の起業活動が活発化している。
地元水産物を活用した漁村女性の起業活動が活発化している。

 

「もったいない」から始まる漁村女性の起業活動

女性たちの起業的な活動は年々活発化している。その原動力となっているのは、一つには「もったいない」という思いだ。まき網等で大量に獲れる魚の中には、サイズや種類によっては流通に乗らない、という理由で捨てられてしまうものも少なくない。けれど、自分たちの夫や息子が命がけで獲ってきた貴重な海の資源を、無駄にするなんてもったいない。そこで、よけられてきた漁獲物をなんとか活用し、例え一盛り百円でも良いから値段をつけていこう、という思いで始められた活動は多い。
漁村の女性たちは、新鮮な水産物の美味しさやそれらを使った様々な料理をよく知っているが、これまでそういう情報を提供することは少なかった。しかし、魚食離れが進み水産物の単価は低迷していくという現状を認識した時に、まず地域の人々に自分たちの地域の漁業をPRし、地元で獲れる水産物の美味しさを知ってもらうことで、水産物の需要を高めていこうという思いが生まれ、これが動機となって活動が始まるケースもある。
漁家の女性たちの就業機会のためというのも、活動開始のきっかけになる。一方で、自分たちの楽しみや生き甲斐を目的とした活動もある。様々な思いが絡まり合った結果として、全国にたくさんの活動が生まれてきている。

女性たちが熱く語り合う、魚食を考えるシンポジウム

シンポジウムでは他のグループの加工品を試食するコーナーもある。
シンポジウムでは他のグループの加工品を試食するコーナーもある。

私たちが企画する連続シンポジウムのきっかけは、2004年に高知県宿毛市で開催されたシンポジウム(すくも湾漁協女性部主催)だった。女性グループによる小さな起業活動の芽が、そこここに生まれ始めていた宿毛湾地域における、こうしたシンポジウムを通して見えてきたのは、様々な活動に共通するいくつもの問題点と、問題解決や、活動のより大きな展開のために必要となる情報の少なさという実態だった。
そこで翌年から、加工品の製造販売等の活動を行っている女性グループや、これから何かやってみたいと考えている女性たちが、自由に悩みや苦労を語り合ったり、商品づくりや販売についての情報交換ができる場としてのシンポジウムを開催することになった。
第一回目のシンポジウムは千葉県の協力をいただき、県内漁協の女性部員さんを中心として、地元水産物の活かし方を考えよう、というテーマで意見交換を行った。二回目と三回目は、全国の女性加工グループを対象に、下関の水産大学校と東京海洋大学をそれぞれ会場として実施した。その後は財団法人東京水産振興会との共催となり、昨年は大分県、今年は山口県での開催となった。
このシンポジウムでは流通や加工の専門家や、他の業種も含めた起業活動の実践者など、毎回様々なゲストを迎えて、参加者からの質問等に答えていく。時には参加者同士が意見交換をし、いつも時間が足りなくなるほど盛りあがる。地元向けの商品はどうしても安い値段設定にならざるを得ないという悩み、販路開拓のために店舗を回る苦労話、インターネットの活用への期待と疑問、加工技術や真空のための機材の紹介。実際に手を動かし想いをこめて実践している活動だからこその、具体的な質問が次々とあがってきて、なるべく多くのヒントをつかんで帰ろうという意気込みが伝わってくる。

女性ネットワークを広げよう

シンポジウムをやってきて気付いたことは、活動していく中で出てくる課題には、共通するものがたくさんあるということだ。その課題をすでに乗り越えてきたグループもあれば、今まさにそこで悩んでいる人たちもいる。懇親会や意見交換が、目の前にある壁を少しでも低くするための役に立てば良いなと思う。そして、せっかく進む方向を同じくする仲間が集まるのだから、そこからネットワークを広げていきたい。
最近、自分たちの加工場に小さな販売スペースを設けたあるグループは、このシンポジウムを通して出会った仲間の商品をそこに置いていきたい、と申し出てくださった。少しずつではあるけれど、小規模なグループが連携していくことで、大きな展開になっていきそうな気配を感じる一幕だった。
「なにかやりたい。」そういう思いを持った漁村女性の活動を形にしていくための応援団として、今私たちにできることをきちんと継続していきたいと思う。なぜなら、私たち自身が「なにかやりたい」と集まって、少しずつ歩き始めている、小さな女性グループなのだから。(了)

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