Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第223号(2009.11.20発行)

第223号(2009.11.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆本誌で以前、白石ユリ子さんが魚食について取り上げられた印象深い話(138号参照)を思い浮かべながら、本号の関いずみさんの記事を読んだ。浜の女性たちが水産加工について地道な努力を積み上げられていることはつとに知られている。一方、海から離れた地域に住む主婦や女性たちはスーパーで魚の切り身や加工品を買うにしろ、自分たちで海の幸を利用するための格闘の場はキッチンをおいてほかにあまりない。海外からの水産輸入食品を何知らず消費しているグローバル時代にあって、日本の周囲の海で漁獲された魚介類を有効に利用し、しかも付加価値をつけて販売する試みが今後ともに注目されるものと期待したい。同時に、地域ごとの取り組みをより広い視野から展開するためには、関さんらのようなかしまし娘の役割がとても大切だと思った。定置網や底曳網で漁獲され規格外として捨てられる魚でも、工夫次第でなんとかなるものだ。少数しか揚がらない魚をフレンチやイタリアンで提供するレストランのシェフもいる。「もったいない」の精神を浜から発信する取り組みにエールを送りたい。
◆東京大学の宮崎信之さんの取り組みは、耳慣れないバイオロギング技術による海洋研究の最新のレポートである。陸上で野生動物にテレメーターをつけて行動分析をする手法は前から知られていたが、海中動物に応用できるまでになったかという思いが強い。ハイビジョンで見るような鮮明な映像はまだまだ無理としても、水族館でみるのとはまるでちがう、ライブでの観察ができるとすれば、ぜひとも研究面だけでなく、子どもたちにも海の驚異と不思議を啓発する試みを進めていただけたらと思う。また、日本での研究を進めるためには、若手を中心としたネットワークの構築が必須だろう。浜でがんばる女性に負けてはなるまい。
◆残間里江子さんによる海との一体感の話は、身体と心の一体感の吐露でもあろうかと強く思った。ナポレオンフィッシュはメガネモチノウオの通称で、世界の熱帯に広く分布する大型魚である。水族館の人気者だし、香港では珍重される食材でもある。記念写真も撮れますよというくだりは、残間さんのお人柄を彷彿とさせてほほえましい。ただし、笑えない話がある。ダイバーがこの魚と一緒に記念写真を撮ると聞くと人間と自然の調和とか共生のイメージをもつが、この魚をゆで卵で餌付けし、写真撮影のために一日数十個の卵を与えたと聞いたことがある。明らかに過剰な介入である。ナポレオンフィッシュが「生活習慣病」になるのではないかと懸念する。高級魚でもあるナポレオンフィッシュを青酸カリで獲る漁法が与える影響についても、ここ10年ほどの間、国際会議などで指摘されてきた。今後とも、健康な魚との付き合いを追及することは忘れてはなるまい。  (秋道)

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