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オーシャンニューズレター

第217号(2009.08.20発行)

第217号(2009.08.20 発行)

船舶への太陽光発電装置の搭載

[KEYWORDS] 日本郵船/クール・アース・プロジェクト/AURIGA LEADER
(株)MTI CTO兼技監◆信原眞人

日本郵船ではダントツの環境先進企業を目指して、2008年4月より「NYK クール・アース・プロジェクト」をキックオフし、環境対策に取り組んでいる。
その一環として2008年12月に本格的な太陽光発電装置を搭載した自動車運搬船を竣工させ、順調な稼動を確認し、さらなる省エネ船の開発とCO2排出削減を目指している。

日本郵船グループの環境への取り組み

■自動車運搬船 "AURIGA LEADER"
■自動車運搬船
全長:199.99m/全幅:32.26m/型深:34.52m /最大積載自動車台数:6,200台/載貨重量トン数:18,758トン/総トン数:60,213トン/建造:三菱重工業株式会社神戸造船所
太陽光発電装置
出力:40kW(一般家庭消費電力の12軒分)/出力電圧:440V/太陽電池パネル枚数:328枚

国際海運は国境を越えた世界を結ぶビジネスであるため、「京都議定書」にある温室効果ガス国別削減目標数値の対象外となってはいるが、国際海事機関(IMO)の発表によると2007年の国際海運によるCO2排出量は8.4億トンと世界の約3%を占めている。その内、日本郵船グループの排出量は1,900万トンである。日本郵船ではこのような状況に鑑み、環境問題に対する積極的な取り組みが必要と判断し、ダントツの環境先進企業をめざして2008年4月よりNYKクール・アース・プロジェクトを発足させた。これは目標として以下を掲げるものである。
・長期:2050年までに温室効果ガス排出量50%削減の世界的な取り組みに貢献
・短期:2013年までに輸送トンマイル当りの温室効果ガス排出量を10%以上削減(06年度比)
本プロジェクトでは太陽光、風等の再生可能エネルギーの利用も検討しているが、その一環として2008年12月に世界初の本格的な太陽光発電装置を搭載した自動車運搬船"AURIGA LEADER"(写真参照)を竣工させたので、ここに紹介する。

太陽光発電装置搭載プロジェクトの特徴

このプロジェクトには3つの特徴がある。第一に、海事産業外の企業との連携による実施である。総合エネルギー企業として太陽電池ビジネスを手がける新日本石油株式会社、および荷主として自動車を運搬するトヨタ自動車株式会社の2社と連携し、また多方面のご支援ご協力のもとに実施することができた。従来の船舶での開発は海事分野に携わる企業によるものが多かったが、上記2社と連携したことは、新ビジネスの展開への礎となった。
第二に、船舶ユーザーの視点を入れた開発を目標に掲げ、造船所、メーカーの協力を得て実施したことである。今までの技術開発は造船所が主体となって実施されることが多かったが、これからはユーザーである船主がリーダーとなって実施する技術開発もあってよいと思われる。現在、日本郵船では2010年度の発注を目標に50%省エネ自動車運搬船、30%省エネコンテナ船を開発しており、さらにCO2排出量の69%削減が可能な「NYKスーパーエコシップ2030」の構想も発表したが、これらにも随所にユーザーの視点を入れている。
第三に、陸上の技術開発と並行して海上の技術開発に取り組んだことである。陸上の完成品を船舶へ取り付けるという追従型の技術開発ではなく、海上でも率先して先端技術に取り組むという意気込みで実施した。

自動車運搬船"AURIGA LEADER"に搭載した太陽光発電装置について

今回、太陽光発電装置を船舶へ搭載する上では、特に次の点に留意した。一つめは、将来の出力アップも見据えて、船内の発電機と連系した電源としたことである。太陽光発電装置だけに着目すれば過去にも船舶へ搭載した例はいくつかあったが、いずれも船内系統とは独立した電源として食堂用照明などへ太陽光発電システムによる出力を供給しただけのものであった。しかしながらそのような100V系での需要は大型船舶といえども20kW程度であり、他の用途にも使用できる電力源とする必要があった。そこで今回は440V系と連系する発電設備とした。また、船舶では発電機の容量に対して船内で使用される機器による電力負荷が大きいため、系統を流れる電力の電圧、周波数とも不安定になりがちである。そこで、直流交流変換機において陸上設備の方法とは異なる運用を実施する事により安定連系を実現した。これにより、将来、燃料電池や蓄電池を船舶へ導入した場合でも、これらの電源設備と統合して運用できる可能性が得られた。
二つめは、船舶特有の環境である塩害、振動および風圧への対応である。陸上で使用された実績のある5種類の太陽光パネルを船舶へ搭載することにより、各パネルの環境への適合性について確認した。2008年12月より2009年6月までの半年間の運用実績において、太陽光発電装置はほぼ100%の稼働を達成でき、その発電量は28,000kWhとなった。船では通常C重油を燃料として発電機を運転し船内電力をまかなっているが、その燃料を6トン削減することができ、そのことによりCO2排出量も19トン減らすことができた。
太陽光発電システムは稼動部がないためほぼノーメンテナンスで運用することが可能であり、初期投資さえ実施すればこのような成果を得ることができる。本船の乗組員からも非常に有益であるというコメントをもらっており、「今回は試験運用であり、太陽電池パネルの汚れや海水の付着による効果の低下率を確認するため、洗浄はしないでほしい」と頼んだ時でさえ、機関長から「何故洗浄してはいけないのか? われわれはこの装置の効果を最大限に発揮したいのだ」とクレームが来たほどである。

システム構成図

今後の取り組み

さらに大容量の太陽光発電装置を船舶へ搭載するためには、その出力を安定させる必要がある。今回の試験データから、一瞬の曇りにより急激に出力が低下したり、すぐさま復帰していることが確認できた。将来のステップとして250kWの太陽光発電装置を自動車運搬船に搭載した場合、その出力が激しく変動すると、並列運転しているディーゼル発電機が追従できないことにより船内停電が発生する恐れがあり、船舶の安全航行に大きな支障を来たすことも考えられる。
そこで、次の取り組みでは太陽光発電装置の出力平滑化を目的として、蓄電池を"AURIGA LEADER"に搭載する予定である。蓄電池の充放電を適切なタイミングで行えば本システムの急激な出力変化の緩和が可能であり、さらに大規模な装置の搭載も容易にできると考えている。また今後の普及を考えた場合、船舶の特性上その最上部に重い太陽光パネルを搭載することは安定性の点で望ましいことではなく、軽量のパネルや取り付け架台が必要である。さらに、今回搭載した太陽光パネルの効率は15%程度しかないので、より高効率で安価なパネルの市場への供給が期待される。日本郵船グループとしては本プロジェクトのような取り組みを通じ、今後も積極的に環境への貢献を実施する予定である。(了)

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