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オーシャンニューズレター

第203号(2009.01.20発行)

第203号(2009.01.20 発行)

国家を挙げて海上生命線を守れ~直ちに海自部隊のソマリア沖派遣を決定すべし~

[KEYWORDS] 海賊対策/海洋安全保障/国際協力
岡崎研究所 理事◆金田秀昭

アラビア半島南側のアデン湾やソマリア沖で海賊が急増して、国際的な海上交通安全上の重要課題となっている。
すでにNATO/EU、印、露など10数カ国が軍艦等を派遣しており、日本の動きは遅れていると言える。
日本政府は現行法に基づく海自部隊による海賊対処を速やかに下命し、海賊を取り締まる新法の成立にむけた明確な政策決定を直ちに行うべきである。

ソマリア沖海賊に関するこれまでの内外の動き

ソマリア沖海賊に関するこれまでの内外の動き

昨年12月、臨時国会の焦点となっていた補給支援特措法改正案などが成立し、当面の政局は、「生活経済防衛」を争点とする通常国会、解散、総選挙、政界再編を巡っての駆け引きに移っているが、ここで麻生政権は、延ばし延ばしにしてきた「ソマリア海賊取り締まりのための海自部隊派遣」という重要な安全保障課題の処理を急がなくてはならない。
近年、アラビア半島南側のアデン湾やソマリア沖で海賊が急増して、国際的な海上交通安全上の重要課題となり、昨年6月以降、国連が3つの安全保障理事会決議によって各国に対して実力による対処を求め、これに応えてNATO/EU、印、露など10数カ国が、軍艦等を派遣している(中国も昨年末に派遣、韓国は近く派遣予定)。派遣国が増えるにつれ、情報共有などの協調行動が強化され、米中海軍の協力行動などが現実のものとなる可能性すらある。日本に対しても有形、無形の期待の声が高まっているが、日本の動きは遅い。
年間2,000隻超の日本関係船舶(船籍、運航会社、船貨、船員)が航行する((社)日本船主協会発表)この海域では、すでに10隻を超す日本関係船舶が被害にあっており、日本でも大きな注目を浴びるようになったが、国会の捩れ現象を背景として、与党や政府内での対応は鈍かった。
昨年10月の衆議院テロ対策特別委員会で、民主党の長島昭久議員が、ソマリア沖の海賊の脅威を指摘し、海上交通路の安全確保が死活的に重要であるとの見解を示して政府の姿勢を質すと、これに対し麻生太郎総理は、対応策について積極的に検討する意向を示したものの、その後も顕著な進展は見られていない。
こういった緩慢な政治や政府の動きに対して、関係民間団体も立ち上がり、昨年11月には日本財団・海洋政策研究財団が対策会議を開催し、12月にはNPOネットジャーナリスト協会が、年初早々には(社)日本船主協会が、「(日本)船舶が今まさに海賊に襲撃されるかもしれない状況」との悲痛な叫びを上げつつ、速やかな海上自衛隊部隊派遣を求める政策アピールを行った。

検討課題とは

これらの動きもあり、現在は、次の2案を軸として、政治や政府の検討が進められている。第1は、可及的速やかに現行法の範囲内で海自部隊(哨戒機P-3Cや護衛艦等)を派遣するという案で、長島議員や民間団体のアピールと同根である。海賊対処は防衛行動ではなく警備(警察)行動であり、地理的な制約はない。日本周辺海域であれば海上保安庁の出番となるが、遠隔地での長期滞洋行動、各国が軍艦を派遣、海賊が重武装であることなどから、自衛隊法82条の「海上警備行動」を根拠とする海自部隊の派遣が適当と考えられている。この場合、P-3Cは海域全般の監視、哨戒、情報配布など、護衛艦は特定海域の哨戒、護衛、阻止活動などに任じることとなるが、P-3Cなら活動拠点決定から3カ月程度、護衛艦なら1カ月程度(現地進出にはさらに3週間)の準備期間があれば、海自部隊を派遣することが可能となる。
なお、現行法では行政警察職員の権限に留まる海上自衛官には、不法な活動を行っている海賊を逮捕する権限がないことから、護衛艦による阻止活動は、海賊行為を行う船舶に対する監視、接近、追尾、伴走、停船措置、立入検査(以下「立入検査等」)に制限されるため、逮捕の権限を有する司法警察職員である海上保安官を同乗させることも考えられている。一方、武器の使用は警職法(警察官職務執行法)や海上保安庁法が準用され、自己または他人の防護や公務執行に対する抵抗抑止などのため、合理的に必要な範囲での武器使用が認められることとなろう。
第2は、今期通常国会で新法(海賊取締法)を成立させ、同法に基づき派遣する案である。新法は、日本関係船舶および外国船・船員への海賊行為に対し、海上保安庁や海上自衛隊による立入検査等の取り締まりの権限を与え、さらに、正当防衛や抵抗抑止を原則とする武器の使用権限などを規定する恒久法という形をとることとなろう。同法には、日本も批准している国連海洋法条約に規定された海賊取り締まり条項を国内法で整合させるため、海賊の定義、法の執行手続きなども盛り込まれよう。
いずれにせよ、両案とも有効な取り締まりのためには、警職法や海上保安庁法の規定などに準拠した警告射撃や船体射撃などを段階的に容認する部隊行動基準の設定が必要となる。
第1の案(海上警備行動)では、速やかな対応が可能となるが、条文の「海上における人命若しくは財産の保護」について、保護の対象は日本関係船舶に限ると解釈される可能性が高い。安保理決議を真に体した国際協力活動とするためには、外国船・船員も保護対象とするような解釈の再検討や柔軟な運用が求められよう。第2の案(新法)では、立法化により他国に比して遜色のない任務や権限が与えられるとの期待は高まるが、法案可決後の派遣となることから派遣が相当遅れ、その間は、現行法でも可能な日本関係船舶の保護のための海自部隊の派遣すら、立ち往生してしまうということになる。甚だしい場合、国会解散騒ぎの中で廃案となることすらあり得る。

日本政府の速やかな行動を

そこで麻生政権に期待したいことは、まずは、現行法(海上警備行動)に基づく海自部隊による海賊対処(準備作業を含む)を速やかに下命し、これを「梃子」として新法を可及的速やかに成立させ、成立後は、同法に依拠した海賊対処を遂行させる、という形での明確な政策決定(安保会議や閣議決定など)を直ちに行うことである。
麻生総理は、昨年末、浜田靖一防衛大臣に対し、海上警備行動による派遣の検討を加速するよう指示した。また政府は、新法の今通常国会提出の方針を固めた。かくなる上は、速やかに必要かつ十分な準備を執り行うため、政府は、直ちに自衛隊派遣の諸準備、すなわちP-3C展開地の確保のための調査や調整、現地での各国活動状況調査、武器使用を含む部隊行動基準への習熟、要すれば特殊装備の調達準備などを進めるべきである。
肝心なことは、日本の海運関係者の切実な要請に応えて、わが国の生命線たる海上交通路の安全を確保するため、また国連安保理決議などの国際社会の要請に応えて、能力を有する国家として責任を果たす意思を明示するため、「海洋立国」日本の政治が党派を超えて挙国結束し、速やかに海自部隊の派遣を決定することである。
本件は、防衛行動ではなく「武力の行使」には当たらないことは明白であり、国内的に、憲法に由来する問題とはならない。ソマリア海賊対処に軍艦を出すことに反対している国は見当たらない。新政権となる同盟国米国は、期待し注目している。国内的にも国際的にも歓迎されるのであれば、日本としては躊躇わずに取るべき行動ではないか。派遣決定が遅れれば遅れるだけ、通常国会での政局がらみの論争に霞んで、議論自体が完全に埋没してしまい、そのことにより、日本の国際的評価が、決定的に低落し、国益を失する事態となることを恐れる。(了)

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