Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第203号(2009.01.20発行)

第203号(2009.01.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆平成21年。新しい年になった。金融危機のあおりを受け、派遣労働者の解雇問題などで年明けから辛くて寒い冬を向かえておられる方々にはお見舞い申し上げたい。テレビの正月番組などでは、有名タレントがご馳走に舌鼓を打つ場面が繰り返し登場する。毎年のこととはいえ、困っている人のことも考えたらといいたくなる。昨年は食品の偽装問題で明け暮れた。マスコミがこうしたとき妙に正義感を発揮するのは視聴率を稼げるからなのだろうか。偽装を防ぐにはどうすればよいか。海のエコラベルの制度が日本でも動き出している。海洋管理協議会の石井幸造さんはその推進者であるが、日本での認証制の定着度は欧米に比べて低いのが実情である。その理由は欧米と日本とで消費者の環境認識に差があるからという。スーパーで魚を買う場合、商品の表示を見て購入するしかなく、偽装かどうかは知る由もない。しかし、商店街のお魚屋さんならば店の主人と商談できる。値引きもできるし、まさか産地をごまかされることもない。鮨屋のカウンターであれば、産地を聞いたうえネタの新鮮度を確かめることができる。ただし、値段の交渉はあまり期待できない。このように、日本では相手を信頼してモノを買うクセがついている。商品が環境に配慮したものであるのかどうかについては関心が薄かった。欧米では相手を信頼するための証拠を要求する。契約社会のありかたといえまいか。
◆正月恒例のグルメ番組では、とくに北の海の幸がおおく登場した。ブリ、クロマグロ、キンキ、ズワイガニ、タラなどがそうだ。その日本の北の海に異変が起こっている。北海道教育大学の鈴木明彦さんによると、2005年以降、北の海に暖流系の生き物がぞくぞく見られるようになったという。アオイガイ、ルリガイなどがその代表で、写真にあるココヤシが石狩の浜に一昨年漂着した話には驚いた。かつて柳田國男が渥美半島の伊良湖岬に漂着したココヤシを見つけた話を島崎藤村に語り、それが「椰子の実」の歌になった話があったが、新・「椰子の実」の歌が北国で生まれるかもしれない。
◆地球温暖化による海水面上昇が、北の海の異変につながった。温暖化は北極海でさらに顕著になりつつある。国立極地研究所の神田啓史さんは、日本が北極研究に参入してゆくべきと熱く語る。北極研究は南極観測のような国家事業ではないが、今後の地球環境問題に日本の研究者の貢献が大きく期待される分野であることはたしかだろう。世界と日本の海は確実にかわりつつある。グルメ番組もそのへんの事情を心得て制作していただければエコラベル推奨といいたいところだが、相変わらずの利益優先と偽装(=やらせ)主義路線では認証はまだまだ先のことだ。
◆無政府状態のソマリア沖・アデン湾の海賊への対策が国際社会の懸案となっており、昨年12月には3度目の国連安保理決議がなされた。国内ではわが国の対応が喧喧諤諤と討論されている。そこで急遽、小誌編集委員の金田秀昭氏に執筆いただいた。今後の動向に注目である。
(秋道)

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