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オーシャンニューズレター

創刊号(2000.08.20発行)

創刊号(2000.08.20 発行)

経団連意見書「21世紀の海洋のグランドデザイン」について
わが国200海里水域における海洋開発ネットワークの構築

川崎重工業(株)常務取締役技術総括本部長、経団連海洋開発推進委員会総合部会長◆橋口寛信

経団連では今後の海洋開発のあり方についての意見書をまとめ、建議先および関係者に配布した。これは、海を「知る」、「賢く利用する」、「守る」と言う観点から、日本の第2の国土たる200海里水域を有効活用するためのネットワーク構築計画をまとめたものである。

私は1998年7月に経団連海洋開発推進委員会(大庭浩委員長)の下部機関である総合部会長に任命され、日本の海洋開発がどうあるべきかということについて、いろいろな関係者と議論してきた。また今年3月には関係省庁が海洋関係の「国家産業技術戦略」をまとめたので、各省庁の方々および取りまとめの任にあたられた先生方からご意見もお聞きした。これらをベースに総合部会でまとめたのが標記の意見書であり、経団連海洋開発推進委員会の審議を経て、6月20日の理事会で正式採択され、建議のため各方面へ送達された。

経団連の海洋開発への取り組みを振り返ると、1968年に海洋開発懇談会が発足し、海洋開発のあり方について検討を開始している。1971年には経団連の提唱を受けて、海洋科学技術センターが設立されたが、これによりわが国は深海調査船システムなどのハードを保有、運航するとともに、海洋の科学的研究に力を入れ、国際的にも大きな貢献をしてきた。1981年には海洋開発懇談会は海洋開発推進委員会へと発展的に改組、改称され、継続的に海洋開発の促進について多くの提言を行ってきた。

他方、総理大臣の諮問機関である海洋開発審議会において海洋開発の基本的かつ総合的な事項について審議し、提言をまとめており、最近では1998年に、海洋開発4つの軸として、「資源(生物、エネルギー、鉱物)」、「空間利用」、「環境」、「科学技術」をあげ、開発を進めべきであると提言している。しかし現実には、海洋開発の実績としては、沿岸域の埋め立てによる工場立地、港湾整備、漁港整備などのほかはあまり見るべきものがない。

わが国はエネルギーの80%を輸入し、食糧についても60%を輸入に頼っている。一方、わが国の国土面積は約38万km2であるが、その周辺に世界第6位の約447万km2にも及ぶ広大な200海里の排他的経済水域を有している。21世紀には、この200海里水域をもっと有効に活用することを考えるべきであるというのが、今回の経団連意見書の主旨である。

■経団連がまとめた意見書の要旨

経団連がまとめた意見書の要旨

グランドデザインマップ

まず、水産資源問題を見ると、沿岸域におけるつくり育てる漁業について日本は先進的地位を築いたが、水質悪化等で限界に達していると聞く。もし、つくり育てる漁業を200海里水域まで広げることができれば、水産物を再生可能な資源として利用することができ、資源量の増大を図ることができる。そうすれば、日本の食糧問題解決に大きく貢献でき、ひいては世界の人口増加による食糧問題を解決する糸口とすることができる。最近の技術開発で、大型構造物の海域での固定技術は既に確立されつつあるし、太陽光発電、波浪発電等の再生可能エネルギーを利用して、栄養源に富み、清浄かつ低温の深層水を汲み上げて利用することにより、漁場を形成することができよう。

次に、環境問題では、地上の緑化に加えて、海藻による炭酸ガス吸収が考えられるし、これのバイオマスとしての利用の可能性もある。また海洋定点観測基地を数ケ所設け、人工衛星によりそのデータをリアルタイムで送るネットワークを形成し、地球温暖化問題解明に役立てることが考えられる。

その他、資源調査基地により、メタンハイドレート、コバルト・リッチ・クラスト等の鉱物資源利用の可能性を調査すること、地震調査基地、流氷観測基地などにより、国土の保全を図ることが考えられる。

意見書では、これらの構想例として、7つの海域を選び、具体的基地の例を示した。そして、まずこれらの基地の実現可能性について、フィージビリティ・スタディを実施し、その後一つのプロジェクトを選定し、パイロットプロジェクトとして実証実験に取り組むことを提言した。

日本の将来のストックへの投資として、国家予算の一部を200海里水域の有効利用のために使うことは非常に意義あることと考えるし、また日本が世界に先駆けて海洋の有効活用技術を確立することができれば、わが国のみならず、世界に大きく貢献することになると考える。

このほかの海洋利用として、原子力関係設備や廃棄物処理設備を海上に設置するなどの提案もあったが、陸上から海上に移すことで問題が解決するものではないと判断し、意見書にはこれを入れなかった。また、沿岸域の利用については、すでに国の予算が投入され、いろいろなプロジェクトが実現しているので、意見書では「従来の陸からの視点のみでなく、海からの視点も加え、沿岸域の総合的な管理により、開発・利用・保全を三位一体的に推進すべきである」と記すにとどめた。

前頁に意見書の要約をまとめた表を添付するが、意見書全文については、下記のホームページに掲載しているのでご参照願いたい。(経団連ホームページhttp://www.keidanren.or.jp/indexj.html

この意見書に対し、さらなる議論がなされ、賛同が得られて産・官・学の共同による国家プロジェクトが立ち上げられることを願うものである。

 

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