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オーシャンニューズレター

第189号(2008.06.20発行)

第189号(2008.06.20 発行)

海洋環境保全に向けた周辺国との協力の推進

[KEYWORDS] 国連環境計画(UNEP)/北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)/海洋環境保全
国連環境計画 北西太平洋地域海行動計画 地域調整部総務担当官◆馬場典夫

国連環境計画のもと日本、中国、韓国およびロシアは、1994年からNOWPAPを設立し、黄海および日本海の環境保全のために協力を推進している。
協力の開始からすでに10年以上が経過し、これまでの議論中心の活動から、実行性のある協力への発展が期待されている。

国連環境計画(UNEP)と北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)

UNEPでは、1974年から、悪化する世界の海洋・沿岸地域の環境問題に近隣諸国が協力し取り組む地域海計画を推進しており、1994年、日本、中国、韓国およびロシアの4カ国により、主に黄海および日本海を対象海域として「地域内の住民が長期に亘ってその恩恵を享受し、子孫のために地域の持続可能性が守られるよう海洋・沿岸環境を有効に利用・開発・管理すること」を目的に北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)※1が設立された。現在、世界でNOWPAPを含め18海域で地域海計画が推進されている。
NOWPAPでは、各加盟国にそれぞれ一つの地域活動センター(RAC)が設置されており、各国の専門家や関係機関さらに他の国際機関との協力のもと、政府間会合で決定された事業を推進している。また、NOWPAPの本部事務局として地域調整部(RCU)が富山県と韓国・釜山に共同設置されている。

NOWPAPのさまざまな活動

ICC(国際海岸クリーンアップキャンペーン)は、海岸清掃に一般の人たちが参加し、ゴミの問題や海洋環境への関心を高めてもらうことなどを目的としている。
ICC(国際海岸クリーンアップキャンペーン)は、海岸清掃に一般の人たちが参加し、ゴミの問題や海洋環境への関心を高めてもらうことなどを目的としている。

1)特殊モニタリング・沿岸環境評価地域活動センター(CEARAC)
CEARACは、日本・富山市にあり、主に有害藻類(HAB)の異常繁殖のモニタリング・評価、海洋モニタリングにおけるリモートセンシング技術の活用に関する活動を行っている。これまでにHABおよびリモートセンシング技術に関するNOWPAP各国の状況について検討を行い地域の抱える課題を総合報告書としてとりまとめ、また各国のHAB対策事例に関する技術報告書等も刊行している。また、HABやリモートセンシングに関する地域内の情報・データの共有化を促進するためのホームページの開設、地域内のリモートセンシング技術活用のための能力向上を目的にリモートセンシングデータ解析に関する研修開催やそのための教材の開発等も進めている。
2)海洋環境緊急時・対応地域活動センター(MERRAC)
MERRACは、韓国・大田市(テジョン)にあり、国際海事機関(IMO)との協力を得て主に海洋汚染事故等に際し、各国が効果的に協力できるよう様々な活動を行っている。2003年、大規模な油流出事故の際に関係国が即時に協力し対応できるよう「NOWPAP地域油流出緊急時計画」を採択し、さらに2005年、NOWPAPの地理的範囲外であるが、油田やガス田の開発が進むサハリンも緊急時計画の対象範囲に含めることが決定された。現在、緊急時計画により危険有害物質(HNS)流出事故に対応するための議論も進められている。またNOWPAP各国は、万が一に備え緊急時計画に基づいた各種訓練を行うとともに、油処理剤の使用や海岸漂着油の処理などに関するガイドライン等の作成も行っている。
2007年12月7日、不幸にも黄海で発生した香港船籍タンカー「ハベイ・スピリット」号(約14万6千トン)からの油流出事故では、積荷原油20万トンのうち約1万トンが流出する地域内で過去最大級の事故であったが、韓国政府の要請によりNOWPAPで初めて緊急時計画が発動され、専門家の派遣や油吸着材の提供等、関係国関係機関の協力が円滑に実施され、緊急時計画の有効性が確認された。
3)汚染モニタリング地域活動センター(POMRAC)
POMRACは、ロシア・ウラジオストク市にあり、地域内の海洋・沿岸環境のモニタリングに関する活動や協力体制の確立を目的としており、これまでに海洋・沿岸環境に大気から降下する汚染物質と、河川または直接流入する汚染物質の各国のモニタリング体制を調査し、地域内の課題をとりまとめた地域報告書を刊行している。また、POMRACは他の地域活動センターと協力し、NOWPAP海域の環境状況をまとめた海洋環境白書を2007年に刊行した。
POMRACでは、2007年から新しい活動として、統合沿岸河川域管理に取り組み始めている。
4)データ・情報ネットワーク地域活動センター(DINRAC)
DINRACは、中国・北京市にあり、地域内の海洋・沿岸環境に関するデータ・情報システムを確立し、地域内のデータ・情報の交換についての協力の推進・調整を目的としており、NOWPAP海域の海洋環境保全に関する様々な情報やデータベースの整備・リンクを進めており、NOWPAPにおける情報・データのクリアリング・ハウス※2としての役割を担っている。NOWPAPでは、参加国や関連機関における情報交換を促進させるために、「時間的ニーズに応じた、自由で無制限のアクセス」を原則としたデータおよび情報の共有のための基本方針を採択している。
5)海洋ゴミに関する取り組み
海洋ゴミは、海洋環境、経済、そして人の健康に危害を及ぼし世界的にも深刻な問題となってきている。NOWPAPでは2005年の政府間会合で海洋ゴミに対する活動(MALITA)を採択し、各RACおよび各国関係機関と連携し、関係国間のネットワーク構築、各種ガイドラインの作成、海洋ゴミ問題に関する普及啓発活動等を行ってきた。NOWPAPでは、2カ年のMALITAの成果を基に「海洋ゴミに関する地域行動計画(RAP MALI)」を策定し、海洋・沿岸環境での海洋ゴミの発生・流入防止、海洋ゴミの量・分布状況の監視、既存の海洋ゴミの除去等、海洋ゴミに関する活動をさらに推進していくことにしている。

NOWPAPの成果と課題

近年、緊急時計画に基づく訓練の実施や、初めての緊急時計画の発動、またリモートセンシング技術に関する研修事業の開始など、これまでNOWPAPから提言されてきたいくつかの実務的な取り組みがようやく実現してきている。NOWPAPの最大の成果は、日本、中国、韓国およびロシアの4カ国が共有する海域の環境保全について包括的に議論できる場が設けられていることであろう。NOWPAPの目的達成のためには、NOWPAP関係者による議論のみではなく、議論の結果に基づく具体的な活動の実施が必要であり、各国でのフォローアップが不可欠である。日本は1960年代に死の海とも呼ばれた激しい海の汚染を克服してきた経験を有しており、NOWPAP海域の環境保全に日本がリーダー的役割を果たすことが期待されている。先般閣議決定された海洋基本計画でもNOWPAPによる活動が盛り込まれており、これらが基本計画に従い推進・実行されることを願っている。(了)

※2 データのクリアリング・ハウスとは、通信ネットワークを活用して、資料およびデータを収集・保存・相互利用する情報の流通機構。

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