Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第189号(2008.06.20発行)

第189号(2008.06.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆現場を見たわけではないが、中国四川省を中心とした大地震とミャンマーを襲ったサイクロンによる惨事と被害は未曾有としかいいようがない。サイクロンの巨大化と地球温暖化はどこかでリンクしている。真偽のほどは定かでないが、温暖化による極域の解氷現象がプレートの動きに影響し、大地震発生の誘因になったとする説も出された。今回の災害は、ある地域だけで発生した出来事ではなく、グローバルな現象と連関するといえるのではないか。とりわけ、海洋の変化がその鍵を握っている。
◆本誌の3篇のオピニオンから、そうした問題を考えるうえで多くのことを教えていただいた。九州大学の柳哲雄さんの沿岸海域観測体制における日本の役割論と、国連環境計画の馬場典夫さんの北西太平洋地域海における環境保全協力論の文中には、NOWPAP、MERRAC、GOOSなど横文字の組織略称名が頻出する。これはとりもなおさず海洋環境の観測・保全・管理が国際的な連携による広域的な情報収集により成立するものであることを示唆している。日本鯨類研究所顧問の大隈清治さんによる捕鯨とホエールウォッチング共存論も、広大な外洋を回遊する大型鯨類の生態と地域ごとの人間活動を踏まえた論考であり、地域とグロ-バルを結合した視点に立つものである。
◆情報の収集と連携を地域間で進めることの重要性はよく理解できる。馬場典夫さんによる、情報の流通を促進するクリアリング・ハウスの確立はとても大切な提案であるとおもう。そこでさらに提案したいことがある。それは、海洋環境に関する観測情報の収集やデータベース化には、統合化を目指す上位の(supra-)ネットワークと、現場に根ざした下位の(infra-)ネットワークの結合こそが重要ではないかという点である。
◆先月5月末に山形県飽海郡遊佐町で、第16回環境自治体会議ゆざ会議が開催された。全国の市町村自治体代表が集まり、日本各地における環境の保全・修復・管理などに関する報告が行われた。12の分科会の1つで漂着ゴミの問題が取り上げられ、ゴミ処理の負担を沿岸域や河川下流域の自治体が河川上流域自治体へ要請するべきなど、注目すべき提案があった。しかし、これは河川・沿岸単位の問題であり、その考えを海の向こうの隣国に押し付けることはできないジレンマがある。この点で、地域ごとのゴミ問題の取り組みと柳さんが提案するような広域情報の統合化をいかにリンクするかが今後の大きな課題になる。データだけが一人歩きしないためにも、地域と地球をつなぐ方法論の構築にむけた取り組みが期待される。  (秋道)

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