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オーシャンニューズレター

第184号(2008.04.05発行)

第184号(2008.04.05 発行)

海洋政策を担う人材育成に向けて

東京海洋大学海洋科学部教授◆松山優治(まさじ)

平成15年に誕生した東京海洋大学の第1期生がこの春卒業となる。
それに伴い、大学院修士課程として「海洋管理政策学」専攻を設置することとなった。
わが国の海洋政策を担う人材は、海洋に関する学際的な知識と同時に国際的な視点と実践的な経験をもつことが必要となっている。本カリキュラムでは、海洋を総合的かつ計画的に調査・利用・管理するための政策立案できる人材を育成し、社会に送り出すことを目的としている。

東京海洋大学の第1期生が卒業へ

東京海洋大学大学院は、本年4月に博士前期課程で海洋管理政策学専攻を発足させる。本誌面をお借りして本専攻の概要を紹介したい。
ご存知のように、平成15年10月に東京水産大学と東京商船大学が統合し、東京海洋大学が誕生した。両大学が持っている特徴を活かすと共にさらなる発展を期して、海洋科学部と海洋工学部の2学部体制をとり、平成16年4月に新入生を迎えた。海洋科学部は海洋環境学科、海洋生物資源学科、海洋食品科学科(現:食品生産科学科)、海洋政策文化学科の4学科、海洋工学部は海事システム工学科、海洋電子機械学科、流通情報工学科の3学科で構成されている。海洋科学部は「環境と食」を大きな柱として、海洋環境の保全と生物資源の有効利用に取り組んでいる。海洋政策文化学科は、将来の海洋に関わる諸問題を自然科学分野だけでなく、社会科学・人文科学の両分野を含めて総合的に捉える教育研究が必要であるとの認識から創設された若い学科である。海洋に関する文理融合型の教育は日本でははじめてであり、教員、学生共に当初は戸惑いもあったが、努力により、次第に目指す方向へと順調に歩み、本年3月には第1期生を卒業させる運びとなった。長い間、自然科学系の学生しか教育してこなかった私どもには、海洋政策文化学科の学生は非常に新鮮に感じる。
昨年4月に海洋基本法が成立し、海洋の基本的な理解、保全、利用のあり方がはじめて明確になった。大学など教育機関においては海洋基本法第28条第2項に「国は、海洋に関する政策課題に的確に対応するために必要な知識及び能力を有する人材の育成を図るため、大学等において学際的な教育及び研究が推進されるよう必要な措置を講ずるよう努めるものとする」と明記されている。
海洋の総合大学を目指す本学は、学年進行に伴い大学院修士課程に新専攻を設置する時期にあたり、海洋基本法の理念を組み入れた「海洋管理政策学」専攻設置を決定した。海洋管理政策学専攻設置の趣旨は「人類共通の財産である海洋を理解し、適切な活用と保全の重要性、および海洋の統合的管理手法と制度を学際的、先端的に教育・研究する」ことである。海洋を総合的かつ計画的に調査・利用・管理するための政策立案できる人材を育成し、社会に送り出したいと考えている。

自然科学と社会科学を融合する海洋管理政策学専攻

自然科学と社会科学を融合する海洋管理政策学専攻
自然科学と社会科学を融合する海洋管理政策学専攻
自然科学と社会科学を融合した海洋政策・海洋利用管理の総合的で学際的な点が本専攻の大きな特徴である。海洋政策分野では海洋の包括的・持続的利用のための政策立案とそのルール作りを教育し、海洋利用管理分野では海洋資源の合理的な利用とその保全を目的とした管理手法を教育する。
教育課程の特色は模式図に示すように、「学際的」「国際的」「実践的」である。海洋管理教育は言うまでもなく、学際的な取り組みが必要であり、四方を海に囲まれたわが国は国際的な視点が不可欠で、さらに実践的な経験を積まなければ対応しきれないと考え、これらを3本の柱とした。広い視野で海を取り巻く課題に取り組むため、次のようなカリキュラムを作った。具体的な講義科目を表に示す。専攻の共通科目として概論科目を設けて、初年度に幅広い知識を得るように心がけ、幅広く学んだ後、次に各分野の専門科目を受講する仕組みになっている。前述のように、本専攻の特徴のひとつに実践的教育がある。海鷹丸などの練習船による大学院海洋実習や水圏フィールドセンターを利用した現場調査実習は本学の施設を有効に活用した特徴のある教育である。海洋フィールドでの現場体験実習は、社会フィールドで学ぶ実務実習と共に現場から学ぶ貴重な体験をする教育である。海を知らずして、海を語ることはできないと私たちは考えている。教育方法にも特徴を持たせている。事例を通じて問題を疑似体験するケースメソッドがそれで、すでに学部教育にも導入し、多くの成果を得ている実践的な方法である。一例をあげて紹介すると、「マングローブ海岸の乱開発で零細漁民が大きな被害を受けた事例に対し、プロジェクト・サイクル・マネージメント(PCM)法を用いて、利害関係分析、問題構造解析を行い、漁民のエンパワーメントを通して問題解決を図る方策を具体的に立案・計画する」等である。
海洋管理政策学専攻は一般の大学院前期課程と同じスタイルで、標準修業年限は2年、卒業に必要な単位は30単位、修了すれば修士(海洋科学)の学位が授与される。学生定員は18名で、このうち4名の社会人枠を設けている。入学者選抜は、一般選抜は学力試験と口述試験、社会人特別選抜は書類審査と学力検査(口述試験)で行われる。社会人を受け入れるにあたり昼夜開講制度を導入する。多くの方の入学を期待している。教員は現在の13名に新たに3名を加えて16名で運営していく予定で、所属する教員では十分にカバーできない分野は兼担教員や非常勤講師が担当する。常勤の教員は海洋政策文化学科の教員だけでなく、海洋環境学科、海洋生物資源学科に所属する教員の一部も大学院では海洋管理政策学専攻に加わっている。

わが国の海洋政策を担う人材育成を

海洋に関する資源・環境・政策の学際的な知識を持ち、長期的・多角的な観点から、政策を立案できる高度専門職業人を育成し、国家関係官公署や地方公共機関、シンクタンクや調査会社、行政や産業界で将来中心となって活躍できる人材を養成したいと考えている。また、海洋という特別な教育研究分野での修了生であることから海外協力機関や公益法人、NGO、NPO等でも活躍する人材が育つことも期待している。
海洋国家でありながら海洋に関する教育が必ずしも十分とはいえないわが国は、海を広く、深く知って海洋政策や計画立案に参加できる人材の養成が不可欠であるとの強い思いを持って創設した大学院専攻である。全教員は熱い思いを抱いて教育研究に邁進する覚悟である。これまでと同様に、皆様方のご指導、ご支援をお願いしたい。(了)

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