Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第184号(2008.04.05発行)

第184号(2008.04.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆サブプライムローン問題や日銀総裁問題で株価も国内政局も激しい春の嵐に揉まれている。しかし、この3月には朗報もあった。超党派で導入された海洋基本法を具体化する海洋基本計画が18日に閣議決定されたのである。そこでは海洋立国に向けて一歩を踏み出すものとして、大きく三つの政策目標が設定されている。順に、海洋における全人類的課題への先導的挑戦、豊かな海洋資源や海洋空間の持続可能な利用に向けた礎づくり、安全・安心な国民生活の実現に向けた海洋分野での貢献である。目標1はわが国の総合力を生かして地球環境問題や海洋科学技術面で国際社会に積極的に貢献していこうとするものであり、目標2は海洋の豊かな生物資源やエネルギー、鉱物資源を持続的に活用する体制の整備に、目標3は安定した海上輸送体制の確保や防災対策の強化に取り組むものである。43ページに及ぶ、格調の高い計画が立案されたと思う。これを絵に描いた餅にしないためには、適切な優先順位を付けた予算措置がなされ、総合海洋政策本部の指導力の下で真に統合的な施策を実施できるかどうかにかかっている。
◆今号では松山優治氏に東京海洋大学が導入する文理融合型の海洋管理政策学専攻について解説していただいた。本ニューズレター168号で東京大学の小宮山 宏総長にやはり文理融合型の海洋アライアンス機構について寄稿していただいているが、東京海洋大学では一歩進めて専攻の設立にまで至ったものである。こうした一連の動きは海洋基本法の精神に適うものであり、数年後に専門性をもって政策にも関わる人材が輩出することを期待したい。
◆昨年12月に黄海で起きたタンカーとクレーン船の衝突による原油流失事故は韓国でこれまでに起きた最悪のものであり、日本国内でも耳目を集めた。海鳥の救護活動を行った須田沖夫氏には現地での活動を時系列的に報告していただいた。事故が起きてからでは遅い。官と民が協働する国際協力体制を築き、普段に技術や知識を交流しておくことは、特に半閉鎖性海域に囲まれている極東諸国にとって重要である。こうした活動は政治体制の違いを越えて行えるものであり、冒頭の海洋基本計画の目標1にふさわしいといえるのではないか。
◆二十年近く前になるが大洋州の流体力学会に招かれたことがある。この時に驚いたのはヨットの設計を論じるセッションで多くの研究者が発表していたことである。背景にヨットへの関心の高さがあるということであろう。海洋基本計画には海洋への関心を高める措置についての記述もある。金井亮浩氏が魅力的に語るように、セーリング文化に代表される海洋レジャーの興隆如何は海洋基本法の精神が国民に根付いたかどうかの証になるのかもしれない。  (山形)

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