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オーシャンニューズレター

第182号(2008.03.05発行)

第182号(2008.03.05 発行)

海洋教育を広めたい! ~神奈川県立海洋科学高等学校の開校~

神奈川県立三崎水産高等学校総括教諭◆水野 彰

神奈川県に海洋科学高校が誕生する。
海洋科学高校は海洋基本法の「学校教育における海洋教育の推進」を踏まえて計画・準備した。
その新校教育内容は「水産」を大切にしながら「海洋科学」へと幅を拡げている。
海洋科学高校の設置目的、学校設定教科「海洋科学」、海洋学習センターについて紹介する。

はじめに

子どもは海へ行き、広くきれいな海やたくさんの生き物を前に目が輝き、感動する。高校生や大人、誰もが子どもと同じように感じ、また癒される。しかし、海洋には汚染など諸問題があるにもかかわらず、多くの人は海洋への理解と関心が低い。とくに現代の子どもには海洋に関する知識・体験が少ない。その理由が小・中学校、高校普通教育といった学校教育の中で『海洋』に関する内容が乏しく、各学校の『学習指導要領』で取り扱いが少ないことなどがあげられる。海洋教育を推進するためには『学習指導要領』で『海洋』の取り扱いを多くすることが必要である。海洋基本法の施行がそれを実現できると期待する。
平成20年4月、社会状況の変化などに対応し海洋基本法を踏まえて、三崎水産高校から生まれ変わり、神奈川県立海洋科学高校が開校する。教科「海洋科学」を学校設定し、高校生が海洋に関して幅広く学ぶ。さらに、子どもを始め誰もが海洋について学習できるよう海洋学習センターを設置し、小・中学校などへの海洋教育支援とともに普及を推進する予定である。ここでは、海洋科学高校の設置目的など、学校設定教科「海洋科学」、海洋学習センターについて紹介する。

海洋科学高校の設置目的など

実習船「湘南丸」646トン
実習船「湘南丸」646トン

新校・海洋科学高校の設置目的、コンセプト、特色ある教育活動は次の通り。
(1)海洋科学を幅広く学ぶ。
海洋科学の内容は海洋に関する自然科学、人文・社会科学分野で幅広く、主に「海洋研究」「海洋保全」「海洋利用」を扱い、海洋文化などを学び、国際社会で活躍できるコミュニケーション能力を育成する。
(2)進学を視野に入れ、スペシャリストの基礎や海洋関連産業で活躍できる人材を育成する。
(3)体験学習を通して自己の可能性を開拓するとともに自律性などを育成する。
体験学習と安全教育を重視し、マリンスポーツや航海実習などを通して協調性などを育成するための教育活動を展開する。
(4)海洋における専門性を深める系(科目群)を6つ設け、多彩な選択科目を提供する。
エコロジー・サイエンス(資源・環境)系、テクノロジー・ネットワーク(工学・情報)系、グローバル・カルチャー(国際・文化)系、ライセンス・スポーツ(技術・利用)系、航海系、機関系
(5)海洋に関する生涯学習センター機能を設置する。

教科「水産」と学校設定教科「海洋科学」

現行学習指導要領などに規定されている教科「水産」は別表の通り、その目標に「海洋の科学的な探究」に関する項目がない。そこで「海洋に対して"科学的に探究する"能力と態度を育てる」を目標とした教科「海洋科学」を学校設定し、さらに「海洋科学基礎」などの科目を学校設定する。教育課程は教科「水産」に教科「海洋科学」の科目を加えて編成する。

教育課程

神奈川県海洋教育の拠点・海洋学習センター

海洋学習センターは、神奈川県内の海洋教育の拠点となり、海洋生物観察会や環境保全活動、漁業体験、インターネット活用により、教育資源を活用して社会貢献を推進し、生涯学習に応じた海洋に関する学習者の拡大と普及を行うことを目標として設置されるものである。幼児期から高齢期まであらゆる生涯各期の人々や障害をもった人にも海洋教育の普及を推進し、誰でも海洋教育を受けることができるようにするとともに小・中学校など学校教育で扱われている「総合的な学習の時間」「理科」「社会」など水産、海洋教育を支援する。また、海洋科学高校生がボランティア活動や異年齢集団と学びあうことによって、心豊かな人間性を身につけることができ、卒業後も海洋の学習、保全活動などができるような場を提供する。ただし、実施上の課題は施設、設備が不十分であることや担当者の適切な配置ができないことなどがある。今後、この課題を解決できるよう取り組みたい。

海洋学習センター

おわりに

海洋科学高校は「水産」を大切にしながら、「海洋科学」へ幅を拡げ、海洋学習センターにより海洋へのよき理解者を増やす。そして、海洋教育の一端を担う高校として船出をする。将来、教科「水産」が教科「海洋科学」を加えて、教科「海洋」になることが望ましい。海洋基本法施行に基づいて初等・中等教育では学習指導要領上に海洋教育が位置づくよう期待する。義務教育で海洋教育を必修化できれば数年後、数十年後には国民の多くが海に関心を持ち、保全する心を持つことになる。その中から海洋政策に貢献する人材が育つことを願う。(了)


● 神奈川県立海洋科学高等学校 (http://www.kaiyokagaku-h.pen-kanagawa.ed.jp/

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