Ocean Newsletter
第182号(2008.03.05発行)
- 広島大学名誉教授◆松田 治
- 京都府立海洋高等学校教諭◆上林秋男
- 神奈川県立三崎水産高等学校総括教諭◆水野 彰
- ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男◆中国製の冷凍餃子に含まれていた有機リン系農薬「メタミドホス」による中毒事件が発生し、大きな社会問題になっている。わが国は小麦、大豆、とうもろこしなどの穀物類だけでなく、加工食品までも海外からの輸入に大きく依存していることを、国民一人ひとりが改めて認識することになった。食の安全保障の重要性にようやく目覚めたといえるだろう。経済は今や国家体制の違いさえも超えてグローバル化し、それに伴って工業だけでなく農林漁業も容易に国境を越えている。これ自体は決して悪いことではない。しかし、経済原理だけに任せるならば有事の際に国民の安全安心は危機に晒されてしまう。
◆わが国の食料自給率はカロリーベースで40%、生産額ベースで70%程度であるが、少なくもカロリーベースでイタリア、オランダ並みの60%台にする必要があるのではないだろうか。これは東京都の面積にも匹敵するという遊休農地を活用して食料自給率を高める努力や食料供給量の25%にも及ぶ年間2,000万トンの廃棄食料を減らす試みにより充分可能なはずである。たとえばレストランなどでドギーバッグを普及させることは持続的な社会の設計に向けて市民意識を高めるのにも効果的であろう。ちなみに、現在、政府が目標としているのは平成27年時点でカロリーベース自給率45%、生産額ベース76%とあまりにも控えめなものである。
◆さて、今号ではまず里海再生の具体例として英虞湾再生プロジェクトについて松田治氏に解説していただいた。人間活動によるストレスがもっとも蓄積する沿岸域、特に閉鎖性海域を総合的に管理し、地域社会との持続的な共生を目指す先見的な試みが国内外のロールモデルとなることを期待したい。次の二題は海洋の後期中等教育に関するものである。上林秋男氏に京都府の試みを、水野彰氏には神奈川県の試みを紹介していただいた。海洋基本法第二十八条第1項には「国は、海洋に関する国民の理解の増進等に関するものとして、国民が海洋についての理解と関心を深めることができるよう、学校教育及び社会教育における海洋に関する教育の推進......等のために必要な措置を講ずるものとする」とある。海洋国家の形成に向けて水産高校が海洋基本法の精神に則って改組し、より広い視点から海洋の後期中等教育の拠点となることは、国民の意識改革に必ずや大きな貢献をするであろう。 (山形)
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- 編集後記 ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男