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オーシャンニューズレター

第180号(2008.02.05発行)

ニューズレター第180号(2008.02.05 発行)

パナマ運河第三閘門計画について

神戸大学経営学部准教授◆大竹邦弘

世界の主要航路では、パナマ運河を通航できないポストパナマックス船が投入されており、パナマ運河庁では、大型化した船舶の通航や増加傾向にある船舶通航量に対応するために、1996年よりパナマ運河の近代化計画に着手、2007年9月にはポストパナマックス対応の第三閘門(こうもん)の建設が開始された。

パナマ運河と船舶の大型化

パナマ運河※1は、米国フロリダ半島の真南に位置する。地峡中央部、チャグレス川/クレブラ分水嶺/グランデ川の運河ルート選択理由は、中米地峡のなかでも二番目に短く、二番目に低い大陸分水嶺(海抜84m)という立地のためである。1880年に仏人レセップスがこの立地に着目して、民間資本での運河建設に着工するも敗退。米国政府が、自国艦隊の両洋間移動を容易とする目的で仏運河建設利権を買収し、1914年8月、運河が開通した。竣工以来90余年間に、チャグレス川上流のマデン・ダム建設、クレブラ水路拡幅工事、同水路底部標高掘削等の改善が行われ、1999年12月31日正午に米国よりパナマ共和国へ運河返還された。
現在の航行可能商船最大船型は、全長294.1m、幅32.3m、航行時喫水12.04mである。
1930年代には、運河航行不能の大型船も出現した。まずは、8万総トン型豪華客船(大西洋航路定期客船)の「クイーンメリー」「クイーンエリザベス」(ともに英)と「ノルマンディー」(仏)の3隻。帝国海軍の巨大戦艦「大和」「武蔵」は、パナマ運河航行を大前提とする米国海軍戦艦の最大幅(32.9m)を上回る船型(幅38.9m)であった。39年、米国は「ミッドウェイ」(45年9月竣工、幅36.9m)級大型空母の航行を目的として、二段式大型閘門(こうもん)建設に着工するも、41年12月の日米開戦で工事中断。ガツン・ダムが原爆攻撃に弱いため、戦後米国は第三閘門建設を断念し、60年代まで海面式運河建設の模索を続けた。
貨物船の大型化進行は50年代以降である。タンカー、バラ積船、コンテナ船、自動車専用船等へと大型化は順次波及した。パナマックス型船(パナマ運河基準では幅30.5m以上、バラ積船換算4~7万重量トン型)航行比率も増加し、06年は外航船の47.5%(6,076隻)となった。06年度の航行実績(外航船基準)は、12,772隻で一日当たり35隻、1隻平均23,278純トンとなり、10年前の実績を貨物量で上回るが隻数では下回った。このように船舶の大型化は明らかであり、パナマ運河の拡張は避けられない時代の流れといえよう。

ガツン閘門
ガツン閘門
ミラ・フローレス閘門
ミラ・フローレス閘門

ポストパナマックス型に対応した第三閘門計画

2006年6月、パナマ運河庁は「第三閘門実施計画案(総額約53億ドル)」を決定し、パナマ共和国議会・同国国民投票での承認を得た。2007年9月3日に盛大な拡張工事開始記念式典を開催し、2014年竣工予定の第三閘門建設は、パナマが自前で行う運河開通100周年事業である。今回の第三閘門建設用地は米国が運河両端で掘削した跡地であり、カリブ海側閘門は、ガツン閘門と平行に海とガツン湖に直結している。太平洋側閘門は、ミラ・フローレス閘門(二段)、ペドロ・ミゲル閘門(一段)に平行、バイパス水路を掘削してクレブラ水路・グランデ川水路に到達する方式となっている。三段式一列閘門の閘室は、全長427m、幅55m、最低水深18.3m。最大能力12,000TEUのポストパナマックス型コンテナ船(全長366m、幅49m、満載喫水15m)、17万重量トン型タンカーの航行が可能である。
三段式採用は、閘門操作での淡水使用量の節約措置である。さらに、各閘室脇に特殊貯水池を設置し、一度の閘室操作にて消費する淡水量を現行並み(約10万m3)とする工夫を講じている。総額約52.5億ドルという工事費調達はあまり問題ないとされている。運河利用者には迷惑なことだが、パナマ運河庁は数度の通航料金値上げを実施したし、完成後も通航料値上げを目論んでいる。
航行閘門建設工事・水路掘削工事は船舶航行の支障にはほとんどならない。
問題なのは、近年の慢性的な航行待ち渋滞である。運河の外航船最大処理能力は年間15,500隻だが、「平均10時間の純航行」のための「年間平均14時間の沖待ち」という状態が10数年続いている。コンテナ船、クルーズ客船のように、数週間前に運河航行予定日が決まる船舶は、1日最大23隻の予約枠(要予約料)を利用して、運河入口での沖待ち回避が可能だが、不定期船の多くは、航行数日前に航行予定日が決まるため、予約枠を利用できず数日の沖待ちとなる。
日本財団助成による市民向け自然観察会。磯での動物分類と生態の講習風景。
■パナマ運河拡張計画の概要
・大西洋側のアプローチ水路の掘削と拡張。
・大西洋側のポストパナマックス閘門への新しい水路。
・閘門操作で水の使用量の節約を可能とした、大西洋側の三段式閘門。
・ガツン湖の最大水位の調整をこれまでより上げる。
・ガツン湖水路・クレブラ水路の掘削と拡張。
・太平洋側のポストパナマックス閘門への新しい水路。
・閘門操作で水の使用量の節約を可能とした、太平洋側の三段式閘門。
・太平洋側のアプローチ水路の掘削と拡張。
(資料:パナマ運河庁)
2007年度実績では、最短日(5月某日)の待機時間平均が約3時間、最長日(11月某日)の待機時間平均が約49時間、と待機時間に極端な差がある。これらは、閘門定期修繕工事に伴う一列操業に因る。数回に分けて6月~11月に実施する工事の結果、一列操業となるのは年間数10日で、第三閘門が竣工すれば、閘門二列操業が常時保障されるので、待機時間は3時間程度にまで短縮される見込みである。

水路の堀削と拡張

大型閘門竣工後、航行可能最大船型はどう変化するのか。たしかに閘門に限っていえば、全長400m、幅50m、喫水17m以内の船舶航行が可能となる。しかし、水路上は現在12.04m以内という喫水に制約されており、今後、水路の堀削と拡張によって、はじめて閘門拡張の恩恵が得られることになる。喫水の浅い超大型クルーズ客船の場合は、現在のままでもそのほとんどすべての航行が可能であるが、貨物船の場合は、(1)クレブラ水路・ガツン湖水路の底部標高、(2)太平洋側・カリブ海側水路の水深、(3)チャグレス川水系の淡水流量、という三大要素によって航行が制約されてきたのである。
(2)は、第一期工事として太平洋側を水深17.9m、カリブ海側を15.7mにまで掘下げる計画である。入札段階のため工事完成時期は未定である。(3)はチャグレス川水系の淡水流量(年間平均50億トン)中の60%を閘門操作と上水道に利用している構造的制約である。他水系にダム建設をして導水計画中だが、立退き補償問題から進捗しないのは民主主義の宿命といえる。異常渇水期でなければ閘門竣工時の内陸水路の最大喫水は14mとなる予定だ。
海上部分水路の浚渫進捗状況により、12.04~14mという範囲での航行可能な最大喫水が決まる。最大喫水14mとは、現行最大能力7,000TEU型コンテナ船、10万重量トン型タンカー、バラ積船の満載時喫水である。
今後、大型閘門の全長、幅を生かした最大満載喫水14mの新船型開発、新パナマックス船の開発が進むかもしれない。(了)

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