Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第180号(2008.02.05発行)

ニューズレター第180号(2008.02.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男

◆松の内も去り、大寒の節気になった。これから立春までが一年の内で最も寒い季節である。今年はアリューシャン低気圧が強く、その西端に掛かる北海道には厳しい寒気が吹き込んでいる。一方で、石垣島などではインドネシア周辺の活発な対流により上昇した気流が下降して、既に夏日が続く状況になっている。これらは昨年から熱帯太平洋で成長し続けているラニーニャ現象の典型的な影響である。ラニーニャ現象は今年の秋ごろまで続くであろう。このように強いラニーニャが出現した年に1988年がある。この年の梅雨は陽性型であり、各地は大雨の被害に見舞われた。その後には猛暑が襲った。台風も当たり年であり、今年も警戒する必要がある。

◆ところで1988年は米国の東岸でも猛暑になり、ゴダード宇宙科学研究所のジェームズ・ハンセン博士はこれを利用して、米連邦議会で温暖化の脅威を証言したことで知られる。地球温暖化に世界の関心を集める口火となったイベントであった。しかし、科学者の間では温暖化が進むとラニーニャ現象とは逆にエルニーニョ現象が頻発するというコンセンサスがほぼ得られている。まだまだ未知のことは多いのである。

◆今号では、まず赤坂甲治氏が東京大学の三崎臨海実験所の輝かしい研究史を踏まえて、海の実験所の未来を展望する。大学の臨海実験所は今深刻な危機に直面しているが、このことは専門外の人々にはあまり知られていない。海洋生物の多様性がもたらす生命科学における豊かな可能性を追求し、フィールド教育をさらに充実してゆくには、関連機関間の連携による新たな体制作りが必要に思う。日本列島は亜寒帯から亜熱帯に広がる豊かな海洋生態系に囲まれている。生命科学におけるこの有利性を生かさない手はない。

◆野上建紀氏は福岡県の岡垣海岸に近年漂着するようになった江戸時代の陶磁器の考察から、漁業活動、採砂、防波堤整備や護岸工事などによる海底環境の変化との関連を指摘する。陸の遺跡については文化財保護法に埋蔵文化財に関する規定があり、乱開発に対して抑止効果になっている。しかし、海底の文化遺産に対してはそのような法令上の保護はない。対応が急がれる所以である。

◆原油の高騰が著しい。しかし、BRICs諸国などの好況により、海上物流は活況を呈している。船舶も大型化している。こうした状況に対応してパナマ政府が6年後の竣工を目指して主導するパナマ運河の新たな拡張計画について、大竹邦弘氏が紹介する。これはパナマックス型船型のより大型化を可能にすることから、造船業界には燃費性能の良い船舶の設計の必要性とともに大きな影響を与えることになる。  (山形)

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