Ocean Newsletter
第17号(2001.04.20発行)
- 北海道立地質研究所海洋地学部主任研究員◆嵯峨山 積
- 北海道瀬棚町長◆平田泰雄
- 特定非営利活動法人サステイナブルコミュニテイ総合研究所理事長◆角本孝夫
- インフォメーション
- ニューズレター編集委員会編集代表者 (横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新
わが国初の洋上風力発電、実現へ
北海道瀬棚町長◆平田泰雄北海道日本海側の小さな沿岸自治体である瀬棚町は、古くは日本公認の女医第1号を生み出し、旧・運輸省時代にマリンタウンプロジェクト全国第1号の指定を受けたが、21世紀初頭にあたり、洋上風力発電第1号の実現へ向けて邁進している。深層水利用も視野に入れたこのビジョンを紹介したい。

伏線としての瀬棚港マリンタウンプロジェクト
瀬棚町は、北海道渡島半島の最北端で日本海に面し、自然発生的に開けた沿岸部と開拓によって拓けた内陸部からなり、美しい海岸線と道南の秀峰、狩場山系が連なる豊かな自然環境に恵まれた町である。地震と津波災害で大きな被害を受けた奥尻島の対岸に位置し、津波被害も受けた経験を有するとともに、奥尻島と結ぶフェリー港を核とした港湾都市でもある。
その地方港湾、瀬棚港は、昭和60年に当時の運輸省港湾局からマリンタウンプロジェクトのケーススタディ港の全国第1号として指定され、21世紀を展望した新たな港湾機能と地域産業の振興発展を目指した検討を長年にわたって続けてきた。
その検討においては、港湾整備事業による多目的防波堤を構築し、静穏海域での増養殖漁業水域としての漁業生産活動の場とし、また海洋レクリエーション基地として諸機能を整備するともに、背後の陸域を利用した観光レジャー施設などの民間活力を導入しようとした、ものであった。
しかし、バブルの崩壊等諸般の事情から、事業の進捗は道半ばであるが、その苦しい道のりのなかから、新時代にマッチした新しいコンセプトが生み出されてきた。

日本初の「洋上風力発電」計画
1997年12月の地球温暖化京都会議(COP3)を契機に、わが国においても新エネルギーの導入が積極的に推進され、とりわけ風力発電については、北海道の日本海沿岸を中心に導入が進んでいる。瀬棚町も風力発電の好適地として、民間による風車2基の建設が進んだ。そこで、平成10年度にプロジェクトの再検討調査が行われ、港湾の新たな利用可能性を探ることとなった。
洋上における風力発電については、1海域に10基の風車を建設したOffshoreWindFarmと呼ばれるものをはじめ、すでにオランダ・ベルギー・デンマーク等で実用化され、年々その規模は拡大されている。しかしながら、日本国内では未だ実施例はもとより検討例もほとんどなかったが、1990年代末に急速にわが国でも洋上風力発電への関心が高まり、沿岸域における風力発電の可能性についての調査が進められるようになった。
一般的には、海の上は陸よりも風が強く障害物がないので、安定していて風力発電には好適といわれていることから、旧運輸省では港湾区域の防波堤の上に風車を建設する可能性等について、平成11年度から検討を始めたとのことである。瀬棚町では、その同じ平成11年度に、NEDOの補助を受けて地元北海道の新エネルギー全般に精通した機関の協力も得て『新エネルギービジョン策定調査』を実施し、その報告の中で、バイオマスなどあらゆる自然エネルギーの可能性を検討した結果、有力なオプションとして「深層水」と並んでこの「洋上風力発電」の提案をいただいたという経緯がある。
ところで、洋上風力エネルギーが陸上よりも良いということを証明する実測データがほとんどないことから、NEDOとの共同研究により、瀬棚港東外防波堤上での風況精査を併行して実施した結果、1年間の平均風速は平均7.9m/s(風力発電成立の目安は5m/sといわれる)、風向も概ね秋から冬の季節は北西、春から夏の季節は東南東と一定しており、風力発電の立地点として好適であることが実証された。
これらの動向を受けて、瀬棚港の港湾管理者である瀬棚町は、平成12年度にNEDOの助成を受け、国の出先機関である北海道開発局凾館開発建設部と連携、協力を得ながら、かつ洋上風力発電に詳しい海洋関係団体の支援もお願いして、このほど「地域新エネルギービジョン策定:洋上風力発電事業化可能性調査」をまとめ、大きな夢のビジョンの実現へ歩を進めることになったのである。
もちろんこうした新規プロジェクトの実現には各種の困難が伴うのは通例であるが、ここでも北海道電力(株)による買電の枠という制約や、系統連系問題などにぶつかったが、事業計画を2段階に分けて、「洋上風力発電」の規模を次のようにして、夢の実現へ向かうこととした。
STEP・1-瀬棚港東外防波堤直背後600kW2基(事業主体:町)
STEP・2-瀬棚港内浅海域1,500kW4基(事業主体:未定)
地域特性を生かした、地域から発信する新エネルギー導入。その実現に大きな期待が寄せられている。課題もいくつか残されているのは事実だが、日本初の「洋上風力発電」計画は、町おこしの起爆剤となり、地域産業や住民生活等地域振興に大きな効果があると確信をしているところである。
地域産業再生に向けて「海洋深層水利用」も視野に
ところで、北海道渡島半島の西部地域は「海洋深層水」の取水適地が3箇所あるといわれており、その一つに瀬棚港沖があげられているので、その利用可能性についても町おこしのうえでは見逃すことはできない。基本コンセプトとしては、洋上風力発電で得られた電力を用いて海洋深層水を汲み上げ、多量な鉄分含有の隣接する一級河川、後志利別川の河川水を取り込み、瀬棚港の静穏海域内外での増養殖漁業に展開する、という将来構想ベースである。
瀬棚町のまちづくりのテーマは 健康と安全な食物づくり である。瀬棚町のホタテは貝毒がないとして広く認知され、また地元農業者が有機栽培で育てたかぼちゃと酪農家の搾乳したオーガニック牛乳で製造した無添加アイスクリーム「吟子のろまん」、有機栽培で育てたお米を原料とした純米酒「吟子物語」は、道内はもとより首都圏外食チェーン店、居酒屋『北海道』で人気を呼んでいる。
地方分権一括法の施行や地域間競争が激化するなか、住民が自らの意思で自らの力で町の運営をしなければならないこの時代、地域振興は「地域の特性をどう生かすか」というキーワードに尽きるのではないか。わが瀬棚町にとって、まず洋上風力発電がそれであり、深層水利用も視野に入れたビジョンを推進していきたい。多方面からのご支援をお願いする次第である。(了)
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