Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第178号(2008.01.05発行)

第178号(2008.01.05 発行)

戦略的海洋国家を目指して

外務副大臣、自民党衆議院議員◆小野寺五典

わが国の国境はすべて海であるがゆえ、国民の多くは国境線を意識せずに暮らしてきた。
しかし、国のかたちは排他的経済水域によって海に大きく広がり、実は7つの国と境界線で接している。
知恵を出し合い、近隣諸国や地域経済の発展や平和などより大きな果実を実現させる、海洋における国際戦略が求められている。

はじめに

「サンマのね 体にうつる 青い海」、これは私の地元、港町気仙沼の小学生が作った俳句で、コンクールの入選作品だ。子どものときから海に親しんで育ち、海が体の奥まで染み込んでいる私にとっても懐かしさを感じる作品だ。国内屈指の漁業基地である気仙沼のしかも魚町というところで生まれ育った私にとって、昨年7月に施行された「海洋基本法」の立案に携われたことは望外の喜びであり、この法案の目指すところが具現化していく過程においても積極的に関わっていきたいと思っている。

海洋基本計画策定へ

「海洋基本法」はその定めにより、総理を本部長とする総合海洋政策本部を中心として、「海洋基本計画」の策定を急いでいる。「基本計画」は「新たな海洋立国の実現」を目指し、政策目標を設定し、「基本的な方針」「政府が講ずべき施策」「施策を推進するために必要な事項」の三つを骨格として策定される運びである。
現在、政策目標として以下の3項目が想定されている。
?海洋における全人類的課題への先導的挑戦、?豊かな海洋資源や海洋空間の持続的利活用に向けた礎づくり、?安全・安心な国民生活の実現に向けた海洋分野での貢献。
これらに直接的間接的に関連して、私が今強く関心を持つ3課題に関し以下に所見を述べたい。

海洋生物資源で地球温暖化対策を

地球規模での海の循環や海水の物理化学的性質、海洋生物の活動などにより、海面においては人類の活動において放出される二酸化炭素の推定約3割が吸収されている。一方、京都議定書における吸収源として土地利用と林業(森林)のみが想定されているように、最近まで陸上の植物による吸収力ばかりが注目されてきた。吸収源の拡大が求められる中、もう一歩視野を広げ海洋生物などを活用しさらに吸収量を高めるべきである。
これまでその機能に頓着されることなく沿岸整備などによって減少してきた藻場域の維持・拡大を図るとともに海中造林、流れ藻の人工生産などの研究をさらに推し進めるべきである。そこで生産される海藻を二酸化炭素吸収のみならず、バイオ燃料の原料として活用する研究も進んでいると聞いており、大いに期待したい。また、海底近くの栄養に富んだ海水を人為的に海面近くまで上昇させることにより植物プランクトンの繁殖を促す研究や二酸化炭素を海洋隔離する研究など、様々な構想やアイデアが発表されつつある。長い海岸線を持ち、周囲を海に囲まれ、世界6位の排他的経済水域を擁するわが国にとって、可能性が高く、メリットも大きい分野だけに強力な推進体制が望まれる。

海で働く人材の育成を

海洋基本法制定記念大会にて
(H19.10.1、憲政記念会館)

漁船漁業の基地、地元気仙沼に帰ってよく聞く悩みは漁船乗船者の急激な減少である。魚価の低迷や燃料の高騰など多くの問題を抱えているが、近い将来、船を動かす人がいなくなるとの不安は日々現実化しつつある。このことは何も漁船漁業だけにとどまらない。これまで、漁船離職者で充足してきた内航海運の世界でも団塊の世代の退職と相まって急速に人手不足に陥りつつある。問題は何か。少子化により兄弟の数が減り、長男の比率が上昇したことが背景にあるが、きつい、危険、その割合には給与が低い、何より陸上勤務者が普通に送れる家族や友人との生活が送れないなど、一筋縄では解決できない問題ばかりだ。複数の処方箋を用意し、職場環境と待遇の改善に繋げていく必要がある。
漁船乗船者の場合では、運航形態の変更による休暇の確保やITを駆使した陸上とのコミュニケーション確保、省力化装置の開発、居住空間の快適化、外国人労働力の活用などが上げられるが、これらを自在にできるような制度改正と技術開発が望まれる。併せて学校における海洋教育の充実により、海洋に興味を持つ子どもたちの裾野を広げていくべきだ。さらに、内航海運の場合は、陸上労働力との相互交流を促し、雇用の対象者を広げるような工夫が必要と思う。また、非常時を想定した外航経験者の確保体制も危機管理上重要な検討課題である。
将来、日本の広大な排他的経済水域と大陸棚において、海底資源を利用するための海上施設で勤務する多くの技術者・労働者が必要になってくる。優秀な人材を確保するためにも海上の職場環境充実に注意を払っていく必要がある。

海洋における国際戦略に向けて

わが国の国境はすべて海であり、国民の多くは国境線を意識せずに暮らしてきた。しかし現在では、排他的経済水域が設定され国土は海に大きく広がり、実は7つの国と境界線を接している。国境を接して隣国と付き合う、大陸では当たり前の感覚をわれわれもまず持つ必要がある。
海洋における境界は人種・歴史・文化などの入り組んだ問題が少ない代わりに、経済的権益があからさまに表面に出てくる。今日のように資源保有や確保が国の強弱・明暗を分け、海底資源に注目が集まる時代では、勢い二国間の関係は緊張し、双方が譲り合うことは難しい。一方、原油の高騰などにより、経済的に開発対象となる海底資源は増えており、世界経済の成長により、開発は人類的要求になりつつある。
ことさらに対立を長期化させ停滞を招くより、主権国家として双方の主張を確認したうえで、現実的解決策として知恵を出し合い、共同の利益に沿った開発を進め、両国ばかりでなく近隣諸国や地域経済圏の発展やそこから生まれる地域の平和など、より大きな果実を優先して実現することが、今求められているのではないか。

おわりに

学生時代にレイチェル・カーソンの『沈黙の春』と出会い、大きな衝撃と感動を覚えた記憶がある。海は守るものとの意識は今も変わらないが、政治に身を置く立場となり、海洋政策に携わり、海の無限の可能性もまた、実感している。
最後にもう一つ小学生の作品、「プール帰り 耳の中には 海がある」。私も子ども時代に経験した耳の中の海を思い出し、海のリズムを聞きながら、間違いのない判断をしていきたい。(了)

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