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第173号(2007.10.20発行)

第173号(2007.10.20 発行)

読者からの投稿 日本船籍の確保にむけて―海洋基本法を活かそう

矢嶋三策●元船長

海上輸送は国の命運を左右する。それだけに海洋基本法第20条で
「日本船舶の確保、船員の育成及び確保」が明記されたことは誠に心強い。
トン数標準税制の導入と合わせてこれら法整備と施策が実施されれば
日本の外航海運もようやく国際的な競争の条件を手にすることができる。


待望の海洋基本法が4月20日成立、7月20日施行となり、慶賀の至りである。
海上輸送は国の命運を左右するものとして、「日本船と日本人船員のナショナルミニマム」※1の早急な設定を訴えてきた者として、本法第20条に「日本船舶の確保、船員の育成及び確保」が明記され、第21条には「海上輸送等の安全が確保されること」を明記されたことは誠に心強く感謝に耐えない。

国土交通省の交通審議会海事分科会国際海上輸送部会における中間とりまとめ(平成19年6月)※2によると、日本籍船の必要規模約450隻、日本人船員の必要規模約5,500人という試算が示され、具体的施策のあり方として、トン数標準税制の導入、日本籍船の確保のための法整備、日本人船員の確保育成策が上げられている(現在の外航日本人船員は、国土交通省海事局調べでは、平成18年度で2,650人である)。冷戦構造の終結に伴い、各国の船社は自由経済による市場原理に従い一斉にFOC船(便宜置籍船)に走ったが、各国は第二船籍の制度を講ずる等により自国籍に船を取り返す努力をしてきたが、現在はさらにトン数標準税制※3の導入を図り、自国籍船、自国籍船員の確保に努めている。日本の船社は2004年、第二船籍の創設に挑戦を試みたが不成功に終り、目下ようやくトン数標準税制の導入に手がかかったところである。

2003年7月2日の国会で扇千景国土交通省大臣は、「日本国籍船の税額というのは、約5,700万円、パナマ船籍の税額が約2,100万円」という答弁※4をなされていたことがある。もし日本政府が使い勝手をパナマ並みにし、税金もパナマ並みとし、パナマから日本へ船籍を移せば、1隻で2,100万円、1,000隻で210億円のお金が日本に入ることとなる。これを日本人船員確保のための助成金として使えばよいと思う。

2003年当時には考えられなかった海洋基本法が今回成立し、国の縦割行政を直し、国民の総意として日本国籍船の確保と日本人船員の育成確保が決められたのである。トン数標準税制の導入と合わせてこれを実施すれば日本の外航海運もようやく国際的に世間並みの競争条件を手にすることができ、国は国民生活の安全と繁栄を守ることができるのである。この場合中間答申にある「非常時における国際海上輸送に係る航海命令の導入」が世間並みとなるための大切な要件であることを忘れてはなるまい。

税金をパナマに払うのはもったいない。関係の皆様の御奮闘と御成功を心からお祈りする次第である。(了)


※1 本誌No.102「日本船籍と日本人船員のナショナルミニマムを確保せよ」を参照下さい。
※2 http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/10/100628/01.pdf参照
※3 本誌No.162冨士原康一著「トン数標準税制について」を参照下さい。
※4 衆議院決算行政監視委員会第156回 第7号議事録平成15年7月2日
  http://www.mlit.go.jp/maritime/statsreport/report2.pdf および http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/10/100628/02.pdf 掲載

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