Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第173号(2007.10.20発行)

第173号(2007.10.20 発行)

編集後記

秋道智彌●ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所副所長・教授)

◆白砂青松は日本の代表的な景観のひとつである。日本海側では天橋立、太平洋側では三保ノ松原がある。佐賀には虹の松原もある。こうした海岸の松並木は、防風林、防砂林、魚附林、さらには風景林として過去に植林されたものであり、その歴史もさまざまだ。山形県の庄内地方には砂丘が発達し、海岸には見事な松並木がある。17世紀中葉までに、海岸の村むらでは増塩政策のために砂丘の松が製塩用の薪木として大量に伐採されていた。そのために飛砂が川を埋め、河川交通が不能となったので毎年、掘削する必要があったし、飛砂の害は海岸部での農作業を困難にした。吹浦という村では河川が埋まり、大水が出たので製塩は禁止されることとなった。森林伐採の影響が砂を通して農地、河川に及んだことを歴史が証明している。

◆現代では、川砂や砂利が道路建設や建築用のコンクリートを作るために大量に採取され、洪水をもたらすもととなった。河川の運ぶ砂を堰堤やダムがせき止めたが、一斉に放水することでダムの底にたまったヘドロが沿岸に及び、生物の産卵や生息域に壊滅的な打撃を与えた。黒部川と富山湾で起こった例は記憶に新しい。

◆中国では、三峡ダムが上流からの砂をせき止めた。数年来、東シナ海から日本海で大量に大型クラゲが大量発生した。この異常現象にはさまざまな要因が関与するとされるが、三峡ダムによって珪酸成分を含む砂が海に流出しなかったことを一因とする意見がある。いずれにせよ、河川の水量と河川が運ぶ土砂をどのように制御し、流域だけでなく沿岸域の生態系を含む広域的な管理政策をいかに立案するかが現在問われている。

◆明治時代に富山県の常願寺川を訪れたオランダ人の測量技師であるゲレーデは、「これは川ではなく滝だ」と言明した。もしも、ゲレーデが太平洋岸にある静岡県の安部川をみたら、おなじ感想を漏らしたにちがいない。安部川もまた、アルプスから駿河湾へと滝のごとく流れ落ちる。川がもたらす土砂が海岸の白砂を形成するもととなったことを考えれば、海、川、山をつなぐ「連関の思想」をもとに国土を考える施策が求められる。

◆かつて、『最後の楽園』の撮影がポリネシアで行われたさい、海岸の砂が火山島であるために黒かったので、わざわざ白い砂を運んで白い砂浜の「楽園」が演出された。映画における虚構の世界は、未来の日本には無用だ。美しい日本とはなにか。あらためて考えてみたい。   (秋道)


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