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第164号(2007.06.05発行)

第164号(2007.06.05 発行)

船舶バラスト水問題の解決に向けて

(株)水圏科学コンサルタント 企画開発室長◆吉田勝美

2004年に国際海事機関(IMO)でバラスト水管理条約が採択されて以来、
船舶バラスト水問題(バラスト水による水生生物拡散・広域化問題)の解決策である
バラスト水処理技術の開発が急速に進んでいる。
条約採択時には疑問視されていた処理技術の開発は、様々な英知と努力によって完成間近となった。
本稿では、条約の批准と発効を促し船舶バラスト水問題の解決に大きく貢献する
バラスト水処理技術の開発現状を紹介する。


はじめに

国際海事機関(IMO)は2004年にバラスト水管理条約を採択した。条約発効後には、順次バラスト水排出基準を満たすシステムによるバラスト水処理を実施することになる。ちなみに、最初に適用されるバラストタンク総容積5,000m3未満の船舶は、2009年の建造船からシステムによるバラスト水処理が義務化される予定である。このように、条約の排出基準を満足するバラスト水処理システムの開発は、バラスト水問題の解決にとって緊急かつ重要な課題である。

開発中のシステム

開発中のバラスト水処理システムは、次のように分類される。

①物理的除去:ろ過および遠心分離により水生生物を除去

②機械的殺滅:物理的・機械的に水生生物を殺滅

③熱処理:熱により水生生物を殺滅

④化学的処理:各種化学薬品を直接バラストタンクに注入。あるいは海水や淡水を電気分解したり、UVを照射して塩素系物質、フリーラジカルの水酸基やオゾンを生成し、水生生物を殺滅

⑤複合技術:物理・機械的処理によって比較的大型の水生生物を除去あるいは殺滅し、化学薬品やUV等で細菌類や比較的小型の水生生物を殺滅

⑥その他:バラスト水中の酸素除去による水生生物殺滅や超電導を利用した水生生物の除去等

これら開発中の処理システムのうち、2004年の条約採択後は、処理工程の中に化学処理が含まれる複合技術が主流になっている。その理由は、条約のバラスト水排出基準に病原性コレラ菌、大腸菌、腸球菌が含まれたことにより、殺菌能力を備えていることも必須となったためである。

IMOは、2006年10月に開催した海洋環境保護委員会(MEPC)第55次会合で、処理システムの開発状況について調査した。その結果でも、各国で開発されている合計20の処理システムのうち化学処理を組み込んだ複合技術がほとんどであった。

開発状況

これら処理システムが正式に承認されるためには、次の手順が必要である。

①"活性物質を使用するバラスト水管理システムの承認のための手順(G9) (条約に附属するガイドラインNo.9、以下G9と記す)"に基づく使用活性物質および関連副生成物(化学薬品等)をバラスト水処理に使用することの承認(MEPC/IMOが審査するG9基本承認)

②"バラスト水管理システム承認のためのガイドライン(G8) (同、No.8以下G8と記す)"に基づく処理装置の型式承認(G9の基本承認を取得していることが審査の条件で、書類審査、陸上試験、船上試験、環境試験で構成され、各国が審査)

③"活性物質を使用するバラスト水管理システムの承認のための手順(G9)"に基づく活性物質(化学薬品等)を使用するシステム全体の承認(MEPC/IMOが審査するG9最終承認)

これら承認活動は開始されたばかりであり、すべての承認を取得し、正式にバラスト水管理システムとして認められた処理システムは現時点では残念ながら存在しない。

ただし、G9基本承認に関しては、MEPC第55次会合までに合計4つのシステムが取得済みであり、G8承認およびG9最終承認活動も2009年の最初の適用に間に合わせるべく精力的に行われている。

最先端のシステム例

G9基本承認を取得している4システムのうち、1つはわが国で開発中のものである。

(社)日本海難防止協会を中心とするチームが、日本財団の助成を受けて開発している。このシステムは、スペシャルパイプ・ハイブリッドシステムと呼ばれ、バラスト水取り込み時にバラストパイプ中に装着されるスリット板とオゾンによって細菌を含む全水生生物を殺滅する方式である。また、排出時には残留するオキシダント(海水とオゾンの反応によって生成される酸化物質)を分解する装置も装備しており、バラスト水を完全に無毒化して排出することも大きな特徴としている。なお、このシステムは、すでに約5万総トンの北米航路のコンテナ船に搭載済みであり、一刻も早いG8およびG9承認を目指している。

おわりに

開発関係者の精力的な努力によって、開発困難と思われたバラスト水処理技術の完成も間近となった。このチャレンジは、バラスト水条約の批准と発効を促し、さらにはバラスト水問題の解決に大きく貢献するものと信じる。(了)

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