Ocean Newsletter
第164号(2007.06.05発行)
- 広島大学大学院生物圏科学研究科教授◆山尾政博
- (株)水圏科学コンサルタント 企画開発室長◆吉田勝美
- 東海大学海洋学部教授◆篠原正人
- ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男◆新緑が眩しい。みなぎる生命を感じる季節である。しかし、沖縄地方は既に梅雨に入ったようだ。この快適な季節もあと数週間で去ってしまう。美しい薫風の季節をしばしいとおしみたい。
◆ところで、地球シミュレータを用いた季節予測実験によると、太平洋熱帯域ではラニーニャ現象がこれからどんどん成長し、インド洋では昨年同様にダイポールモード現象が発生するようだ。このような未来の季節を予測する技術はまだ天気予報のレベルにまでは達していない。しかし、欧米の複数の機関も今年は同じような予測を出していることに注目したい。
◆この予測結果に似た年に昭和42年がある。この年の7月8日には関西以西で集中豪雨があり、土砂崩れなどで365名が亡くなった。梅雨が明けた後は西日本を猛暑が襲った。8月28日には今度は日本海側の新潟、山形で集中豪雨があり、138名の死者を出している。記録破りの39個もの台風が発生したのもこの年である。これからの季節の推移に充分注意してゆきたい。
◆早いものでスマトラ沖地震から2年以上の歳月が過ぎた。あの凄惨なインド洋津波の被害からアジアの村々はどのように復興しつつあるのだろうか。現地を調査した山尾政博氏は、地域の復興にはハード面だけでなく、自治体が住民を適切にリードできるようにソフト面における支援も欠かせないことを指摘する。わが国の安全保障にとって真に必要なものは何かを考えさせられる。
◆活発な国際海運に伴って、年間約100-120億トンのバラスト水が世界の海を移動し、海の生態系を乱している。これを防ぐため、国際海事機関はバラスト水管理条約を2004年に採択した。この条約は極めて厳しい内容であり、1970年に自動車の排気ガス中の窒素酸化物などの濃度を規制すべく米国で導入されたマスキー法にも匹敵するものである。マスキー法自体は1974年に廃案になったが、その後の大気環境保全の方向を決める画期的な役割を果たした。迫りくるバラスト水管理条約の発効の日に備えて、世界の海運、造船業界は水質基準をクリアする技術の開発でしのぎを削っている。吉田勝美氏には、日本海難防止協会を中心とするグループが開発した画期的なバラスト水処理システムを紹介していただいた。
◆惑星<地球>の有限性を明確に意識し、持続可能な社会と経済を構築する試みが様々な分野でなされている。地球環境保全への取り組みはその代表的なものといえよう。先進国であれ、途上国であれ、BRICsであれ、地球上に住むものであれば等しく遵守すべき新しいプロトコルが生まれてきた。パラダイム・シフトが起き始めたと言えるのではないか。篠原正人氏のオピニオンは海事の世界もその例外ではあり得ないことを示している。 (山形)
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- 編集後記 ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男